春の巻

□五章 保土ヶ谷 新町橋
2ページ/8ページ

師匠とはその名のとおり、胡蝶達を育て戦い方を教えてくれた師匠だ。
本当の名や年齢は不明。
本業は医者で、患者には先生と呼ばれている。
そして。


「久しぶり〜」

「テメェ!男が男に抱きつくんじゃねー!!!」

「嫌だな〜、何時私が男だと言った〜?」


性別も不明だ。
一応男っぽいが、裸姿を見たことがないので、なんとも言えない。


「師匠は無性別だもん」


彼岸が意識を取り戻し、師匠に抱きついた。


「ね〜」
「ね〜」


抱き合うというよりも、むしろ『だっこ』になっている。


「しかし師匠、どうしてここに?患者さんがいるのでは?」


慶徳がそう言うと、師匠はふっと笑った。


「理由はよ〜く分かってるんじゃないの?」


師匠の言葉に、4人はビクッとした。


「よくも私に酒を飲ましてくれたね〜。下戸なんだよ私は。その上武器まで持ち出して。覚悟はできてるんだろーねぇ」

「ちっ……」


胡蝶は舌打ちして、太刀に手をかけた。
貴徳も慶徳も彼岸も同様だ。


「戦うの?私と?」

「必要ならな」

「旅の途中で噂を聞いた。老中・村時雨が悪行を暴かれ、江戸を出て京都へ向かっているらしい。追っているのか?」

「そうだ」

「無理だよ」


師匠は冷たく言った。


「何だと……」

「村時雨は、強いよ」

「何故、そんなことが分かる」

「さぁ」


首を傾げながら、師匠はでも、と続ける。


「言っても聞かないだろうね」

「当たり前だ」


胡蝶は太刀を構えた。


「なるほど。では体に言い聞かせるしかないな」


師匠はそう言うと、懐からピストルを出して構えた。


「誰でもいい。1人で私と戦って勝てたら許そう。しかし負ければ大人しく帰ってもらう」

「1人で!?」

「村時雨たちは4人と聞いた。1人が1人倒すのがノルマになってくるんだろ?それとも無理かな?」

「くっ!」


頭に血が上り、手裏剣を構えたのは貴徳だった。


「止めろ!!」


慶徳がすぐに、貴徳の肩をつかんだ。


「ここまで言われて、引き下がれるかよ!」

「止めとけ」


胡蝶が言った。


「慶徳の言うとおりだ。こんな街中で手裏剣や忍術を使えば、周りに迷惑がかかる。第一、遠方からの攻撃しかできないお前じゃ、師匠には勝てない」

「…………」


腕力に自信の無い貴徳は、黙って引き下がるしかなかった。


「慶徳は1つ1つの攻撃は重いが、速さには弱い。師匠のピストルには勝てない。彼岸は問題外。そーなったら、俺がやるっきゃねーだろ?」


そう言う胡蝶の顔には、恐怖は無くむしろ笑みすらあった。


「私に勝てると?」

「当然だ。阿片漬けの浪人や、妙な餓鬼なんかよりもよっぽど楽しめそうだぜ」

「手加減しないよ」

「分かってる」


空気が2人の覇気で、震えているようだった。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ