春の巻

□六章 戸塚 かまくら道
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「滅ぼす女神?」


恭一が意味不明とばかりに言った。


「えぇ、この国は終わります。半年後にね」

「!」


恭一も若もお春も、目を見開いて驚いた。


「おや?貴方はこの方達に、お話ししていなかったのですか?」


祭は悪戯っぽく首を傾げた。


「…………」

「酷いお方だ。お仲間にすら、手の内を明かしていないとは」

「……戯言を申すな!」


村時雨の周りの空気の圧力が増した。


「お前は何者だ!何故あの女の、茜様の予言を知っている!!」

「だって私」


祭は口だけで笑った。


「貴方の兄弟子ですから」

「何……」

「私もあの方の元で学びました。いや、むしろ育ったと言うべきでしょうか」

「この国は滅びない」


村時雨は足元の鉄扇を拾い上げた。


「私が滅ぼさせない!」


ヒュッと音をたてて、鉄扇を横に振った。

祭は何処からか取り出した琵琶のバチで、鉄扇を防いだ。


「守る、と?」

「無論」

「ではお聞き下さい」


祭は舞うかのように、村時雨から離れた。


「女神の魂は4つに分かれました」

「何?」

「正確には、魂だけではなく肉体までもが」


祭はそう言うと、窓の外へ跳んだ。


「何故、私にそれを教える」


村時雨は、祭を睨んだ。


「さぁ、何故でしょう?」


祭はそのまま、下へ落ちた。


「ちょっ、ここ2階だぞ!?」


若が窓から身を乗り出して外を見たが、何処にも祭はいなかった。


「……あれ?」

「2階から落ちたくらいじゃ、人は死なないぞ」


村時雨は苦笑しながら言った。


「でも、もういないなんて」

「あぁ、あいつは只者じゃないね」


纏っていた雰囲気は、人間のそれを超越していた。


「村時雨様」

「何だい?恭一」


村時雨は再び、キセルを吸い始めた。


「あの者が言っていた、この国の滅びとはいったい……」


恭一にそう言われ、村時雨は煙を吐き出しながら顔をしかめた。


「話さなくては、ならないよね……」


いつの間にか日は完全に沈み、空は暗くなっている。
まるで、漆黒の闇が世界を包み込んでいくように。



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