連載

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戦うことがすべてだった
力だけがすべてだった
悲しい、なんて
思ったことはないけれど




強さの顕示





ハレルヤと“翡翠”の二度目の対面は、実にあっさりとしたものだった。
“翡翠”の情報どおりの場所に、半信半疑ながら弟含む数人の部下やら同僚やらを連れて向かってみると、まぁ早い話───いた、のだ。
ベルク・グレオブール───元軍人の、快楽殺人犯。ハレルヤの現在の上司を一方的に敵視していた男で(上司は一切無視していたが)、捕まった時も『俺は悪くない』『エーカーの若造さえいなければ』などと叫び、失笑を買っていた。
上司のエーカーは実に満足そうだったが、垣間見たそのさらに上官は、苦々しい表情をしていたことを覚えている。
疑問を感じながらも、その検挙騒動から3日、ハレルヤは二日間の休暇を得て下町にいた。
元々はこの界隈を住み処にしていたハレルヤである。馴染みの宿屋に部屋を取り(休日まで軍に与えられたアパートにいるつもりはない)、さてどうしようかと酒場に入ったら───
なんか、いた。


「おいこら犯罪者。てめえ何こんなところうろちょろしてやがる」
「うるせぇなぁ、あ、マスターもう一杯」
「はいはい、ストラトスさんには適いませんねぇ」

苦笑しつつグラスを差し出した店主に視線を向けると、ハレルヤとも知り合いのその店主は黙っててくださいね、と呟いた。

「おいおい、俺ぁ軍人だぜ?」
「それでも、です。というかストラトスさんを通報する輩は取り敢えず下町出入り禁止になりますよ」

店主の言葉は、まるで何度も言い慣れたように滑らかで、実はこの界隈は2年ぶりだったハレルヤは剣呑に顔をしかめた。
少なくとも、2年前はそんな暗黙の了解はなかったはずだ。

「何が───あった」

しかし、店主は曖昧に笑うばかりだった。
周囲を見てみると、成る程“翡翠”はそこらの顔馴染み連中からも笑いかけられている。『またうちの店にも来てくれや』『ミナやメアリもあんたが来るのを待ってんだぜ』などと言い交わしている。
………ちなみに余談だがミナとメアリは下町で一、二を争う売れっ子娼婦で、彼女らを一晩買う為に破産する者さえいるという伝説もある女である。
閑話休題。

「グレオブールは捕まえられたか?」
「……………、ああ、しっかり捕まえさせて貰ったよ!エーカーの野郎がすっげぇ満足そうだったぜ」
「…………………エーカー?グラハム・エーカーか?何、あいつお前の上司?………ちっ、言わなきゃよかった」

エーカーの名前を出した途端、不機嫌絶頂になった“翡翠”に首をかしげる。
エーカーが地方から戻り、ハレルヤの上司になったのは2年前。それから今までに“翡翠”との交戦はなかったはずだが───と、そこで何かがハレルヤの心に引っ掛かった。
元来他人より勘が鋭いハレルヤである。下手な他人の言葉より自身の勘の方を信用することにしている。
今の言葉で、何かの符丁が合った気がした。
それを探ろうと、意識を鋭く尖らせる、───が。

「そういえば、俺お前の名前知らないな」

という“翡翠”の台詞で掴みかけた何かが、霧散した。







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