天童×主人公

□おあずけ
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―― 一緒に頑張ろう!
そういって励ましてくれた良子を、最後にがっかりさせたのは
俺だけど……
でも、そんな俺を選んでくれて、嬉しかった。

大学の帰りに良子は必ずウチによって、俺の勉強を見てくれる。
来年合格するまで、デートはおあずけ。
二人で決めたことだ。
それでも、最初のうちはこうして一緒に勉強する時間が楽しかった。
良子に出会って、勉強し始めてからお袋も機嫌が良いし。
なにより、あいつがウチに来るのを一番喜んでいるのがお袋だ。
二人で勉強をしていると、差し入れだなんだって必ず持ってくる。
俺一人で机に向かっていても、持ってきたりしないくせに。
もしかして、俺が良子に手を出さないように見張ってんじゃないか?
そりゃ、好きな奴と一緒だから、少し勉強じゃないことをしたくなるけど。
いい雰囲気になるときに限って来るんだ。
どこかでタイミングを見計らってるのかもしれない。
「できた?」
予備校で出された宿題を、良子が答えあわせしている。
はばたき学園を成績優秀で出てるだけあって、その答えは正確だ。
しかも、間違ったところはしっかり教えてくれる。
正直、予備校の講師より教え方がうまい。
「すごいね、天童くん。ほとんどあってるよ」
間違えているところは、単純な計算ミスだった。
「ゆっくり見直せば、絶対大丈夫!」
明るい笑顔、可愛いなぁ。
二人の間にある机が、いつも邪魔だと思う。
「なあ、良子」
「何?」
「遊びに行かねえ?」
すると、途端に良子が眉をひそめた。
「天童くん。合格するまで、デートはおあずけって約束したじゃない」
「そうだけどさ、こうして勉強してるだけって」
国語の論文風に言うなら、健全な男女が一つの部屋に閉じこもっているなんて、と言ったところか。
とにかく、二人で勉強ばかりしていることに、耐えられなくなった。
「良子と二人で、ゲーセン行ったり、海行ったり……」
「それは、天童くんが大学受かったら」
「去年までだって、ガッコー違うから誘えなかったし」
放課後、喫茶店デートはしてたけどな。勉強付きで。
机の上に突っ伏した俺の頭を、良子が優しく撫でた。
「行きたいのは、わたしだって一緒だよ」
顔を見上げると、いつもはしない寂しそうな顔をしている。
「本当は、いろんなところに一緒に行けると思ってた。一緒の大学行って、休みの日も一緒に」
「良子……」
「……天童くんが悪いんだよ」
返す言葉がなかった。
確かに、試験に出なかったのは俺だけど、それより泣きそうな良子のほうが心配で……
「なんてね、冗談」
ふふっと良子は笑ったが、言った言葉は真実だろう。
寂しい思いをさせていたことに、情けなくなった。
「ごめん」
「ううん、わたしこそごめん。過ぎたことは取り返せないけど、これからのために頑張ろう?」
優しく微笑む良子。
その頬に、手を伸ばした。
良子も力を抜いて、目を閉じる。
唇を重ねようとした、そのとき。
コンコン…………
「良子ちゃん、壬。お茶とお菓子持ってきたわよ」
ドアを叩いたのは、お袋だ。
「ちぇ、タイミング悪い」
隣で良子が吹き出す。
「全部おあずけだね」
良子は笑って言うけど、その笑顔がこんなに恨めしく思えたことはない。
まったく、俺の気も知らないで……
俺は、立ち上がろうとした良子の頬にキスをした。
「……!」
「こっから先はおあずけな」
「もう!」
良子が真っ赤な顔を必死に抑えている。


ああ言ったけどなぁ……

俺のガマンが持つかなぁ……

来年の春、大学生になるまで………

俺の考えを見透かすように、良子が微笑んだ。



終わり

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