―――【殺鬼手】

「おい!村長が雇った男が鬼をぶちのめしたってよ!!」

 とある山奥の村で、人々はこの話題を耳にして大きな声を上げて喜んでいる。
この村の近くの山には鬼が巣食い、村を破壊したり農作物を荒らしたりしていた。

 鬼を倒そうと武器を持ち出し鬼の住処へと向かった勇敢な男達はみな帰らぬ人となっていたのだ―

 そしてこの村ではこの大陸で一番力のある傭兵ギルドから兵を雇い、
鬼を倒してもらう事にしたのだ―

そして、鬼はその雇われた男の一撃により死んだ―
 本日、その傭兵に同伴したこの村の男がそれを伝えに戻ってきた。
 その同伴した男が嬉しそうに語る。

「あの男は大した者だ、鬼の攻撃を避けつつ隙のない刀捌きで鬼を斬ったのだ―」

 するとその話を聞いていたその村の老人が同伴した男に聞く。

「その傭兵はどうしたのじゃ?」

「もう金をもらって帰ったぜ、どうにも体調が悪そうだったからな」

「ふむう……」

 その老人はそれを聞くと、魔法書を持ち何かを口にした……
すると老人は一瞬でその鬼がいた住処へとついた、
その洞窟には話通り鬼の死体が転がっていた。

「鬼を殺し呪いが掛かったか……哀れな奴じゃ……」

 老人は黙って合掌をするとブツブツと呟きながらこの場を去っていった。

―ギルド“赤いマフラー”本部

 いつも通り依頼を終えた男達が夜になると帰ってくる、
とはいっても何人かは帰ってこないこともあるのだが……

 このアドン大陸で一番の傭兵ギルドと聞けば間違いなくギルド“赤いマフラー”が上がるという、
行商の護衛や魔物討伐、護衛などという正当な仕事だけではなく、一部の客は盗みに暗殺を依頼してくる人もいる、
実際、護衛の仕事と暗殺の仕事が重なり、たまたま“赤いマフラー”同士戦う事もあるようだ。

 そんな中、和服を着て刀を腰に携えている男の子がギルドのほうに戻ってきた―

「マスター……戻りましたよ……」

「おう!キョウ、……どこか怪我しちまったか?」

 マスターは調子の悪そうなその男の子を心配する。

「怪我は……してません」

 その男の子はそう言うと左腕を押さえながら自分の部屋へと戻っていった。

キョウ=サクラバ 一四歳、侍。

彼がこのギルドに入会したのは今から二年ほど前、
仲間殺しの罪で和の国から追いやられこの大陸にたどり着いた彼を
この“赤いマフラー”のマスターが餓死寸前の拾ったのである、
その後、侍としての力を認められ、このギルドで働かせてもらっているのである。

 キョウは部屋に入りベットに腰掛けながら左腕の痛みを気にしていた。
(うう……ひどい痛みだ……、あの鬼がいつの間にか術でもかけていたのか……)

 キョウは自分の左腕をよく見てみる、
腕にはうっすらと得体のしれない赤い紋章のようなものが浮かび上がっていて、
指の先っぽはまるで何やら鎧の小手のように黒く硬くなっている、
その黒く硬くなった部分の痛みがジンジンと頭の芯にまで響いていた。
「こんな痛みの中……寝れるのかな?」

そして彼は食事もとらずとにかくベットの中に入ることにした、
横になって寝てみようとすると予想以上に痛かった、
だがいつの間にか気絶したようにキョウは眠っていた―

「キョウ君!キョウ君!!」

「―ん〜」

 女の子の声を聞きキョウは目が覚める、
ふと左手を額につけるといつもと違う違和感を感じた。

 そしてその手が不意に目の前にいた女の子に手首を持ち上げられると
その女の子は驚きながら言う。

「ど…どうしたんです!?この手」

 キョウは寝ぼけながら昨日あった事を思い出す、

(ああ……そういえば少し変だったな……でも痛みは引いてるか)

 そんな事を思いながらキョウは目を開きその手を見た―

「!!?」

 キョウはそれを見ると自分の左腕が凄い事になっている事に気づいた、
左腕はまがまがしい形の小手でも着けているかのように硬く黒光っている、
鉄の腕の外側には昨日の赤い紋章がくっきりと浮かんでいて、
手の甲には蟹の甲羅ように一面に棘がびっしりとついていて、
かけていた毛布が少しビリビリになっていた。

「僕の左腕が……」

 キョウが驚いているとその場にいる女の子が言う。

「何をしたんですかっ! 魔物になっちゃうんですか!?」

「落ち着いてサニーさん!僕は別に魂を売ったりはしないから!!」

 そういいながらもキョウは自分がどうなるのか戸惑っていた―

あれから1週間、キョウはこの変化の事を調べてみて左腕の事はその後いろいろと分かった、
どうやらこれは鬼を殺した者が掛かる呪いだという事が分かった。
あとこの左手の甲の棘は自分の意志で自由に形を変えることが出来るらしい、
爪みたいに一点に集めて尖らせる事も出来るし鍵穴に合わすことも出来る。

便利だが、この呪いがどう自分を苦しめるか、この呪いが治るかは分からないため、
キョウにとっては不安である。

「うむむ……変な依頼引き受けてしまったなあ……」

 こうしてキョウの左腕は鬼の呪いにより変化してしまった―

 キョウが仲間に治し方について聞いてみるものマスターも数いる傭兵達も
この呪いの治し方はわからないようである。

「まずいなぁ……、もしかしたら元に戻らないのかなかぁ……」
 
 キョウは左腕を見ながら悩みこむ、
するとサニーとマスターがキョウの部屋に入ってきた……
そしてマスターがいきなりキョウに話しかけてきた。

「腕……、大丈夫か……」

 するとキョウは溜め息をつきながら言う。
 
「まあ……仕事には支障はない……って言うより便利かもしれませんね……」

 そういいながらキョウは右の腕で刀を抜きそのまま呪われた左手を斬り付けてみる、
しかし左手は斬れずそのまま弾かれた―

「便利……だけど……」

 キョウはさらに溜め息をついた。

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