東方忍術記
□壱章 幻想郷へ・・・
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序(上):誘い
委員長の号令と同時にチャイムが鳴り、今日の授業が全て終わった。
さっきまで静かだった教室が嘘のように急に騒がしくなる。
「秋水―。これから良いか?」
秋水と呼ばれた少年は後ろを振り返る。
「今日は用事があるんだ。ごめん。」
そう言って、一番に教室を出る。
自転車に乗り、家へと走り出す。
十分程度で家に着いた。
学校の制服から私服に着替え、リュックを背負って家を出る。
向かう場所は家の近くにある橋の下。
ある人と待ち合わせをしていた。
三日前。
秋水はいつものように橋の下に来た。
自転車からリュックを取り出し、中から物を取り出す。
木で出来た手裏剣だった。
秋水手作りの手裏剣。
綺麗に加工されている。
コンクリートで出来た壁には大きく二重丸が描かれている。
秋水は壁から少し離れ、一呼吸をし手裏剣を構える。
「…せいっ!」
掛け声と同時に投げる。
手裏剣は円の中央に当たり、そのまま地面へと落ちる。
秋水はリュックから新しい手裏剣を取り出す。
今度は三枚。
次は三枚同時に投げる。
中央とその脇に命中。
「今日も絶好調だ。うん」
秋水は忍者が好きだった。
闇に紛れ、音もなく標的を倒していく地味だがかっこいいというのが理由だ。
ある日、
『いつか自分もなりたい』
という子供じみた考えが生まれた。
その結果、木で手裏剣やクナイを作り、投げる練習をかれこれ四年間している。
今では三枚まで同時に投げれる様になった。
今日の練習を終え、手裏剣を広いに行く。
全部広い終えると同時に雨が降って来た。
今日の雨は勢いが強く、此処から出たら一瞬にして全身が濡れてしまう程だった
。
とりあえず雨が止むのを待つことにした。
しかし、いつまで経っても止む気配がしない。
「まいったな…」
小さな段差に座り、一人呟く。
そんな中、目の前の空間が裂ける。
秋水は驚き、それから少し離れる。
裂けた空間は、2メートル程。
端にはリボンが結ばれていた。
すると、そこから人が出てきた。
女性だ。
長い金髪に、変わった帽子と服を身につけていて、傘をさしている。
夢を見ているのだろうか?
秋水は頬をつねる。
痛い。
現実だ。
しかし、未だにあり得ない。
そんな事が頭の中でぐるぐると回っている。
女性が此方に気付き、近づいてくる。
「隣良いかしら?」
「え?あ、はい」
「どうも」
女性は秋水の隣に腰掛ける。
「貴方、幻想郷に来ない?」
呟く様に女性は喋った。
「え?」
「幻想郷。今説明するわ」
少女説明中…
「どう?」
「そうですね…」
一旦内容をまとめる事にする。
幻想郷とは、人間や妖怪、妖精等が共存する世界で、隣に居る女性は八雲紫とい
う妖怪だという事。
そして、此方とは違ってほぼ全部が自由に近い世界らしい。
実際、この世界で忍になっても誰も必要としないし、周りから馬鹿にされるだけ
だろう。
本来は疑うべきだが、流石に彼女があのような所から出てくると幻想郷の存在は
信じなければならない。
しかし、あっちで生活しても、忍にはなれないかもしれない。
でも、退屈なこの世界よりはマシなのだろう。
決めた。
幻想郷に行こう。
「あの…」
秋水は紫を呼ぼうとした。
「紫様―!宴会始まりますよ―!早くして下さい―!」
紫が現れた空間から別の声が聞こえ、秋水の声はその声に全て掻き消される。
「あら、帰らないといけないわね。三日後また此処に来るわ。それまでに決めて
おいてね」
そう言って、裂けた空間へと入っていく。
「もう決めているんだけどな…」
雨はとっくに止んでいて、所々に穴の空いた雲から夕日が差し込んで来ていた。