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目が覚めた。全身は相変わらず痛いし足には力が入らなくて立てない。
でもそんなこと気にしている場合じゃない。どんな傷よりも俺を抉っていったのはあいつらの言葉だった。

「てめーの面なんか見たくねぇ」

そう吐き捨てたのは獄寺だった。冗談だと思った。今回も怒られて単純に物事が終わるのだとそうどこかで高を括っていた。
確かに今回はやり過ぎたのかも知れない、今まで黙っていた付けもある。でも、こんなことになるなんて思わなかったんだ。

『獄で…』

「オレの名を軽々しく呼ぶんじゃねぇ!」

拒絶。伸ばした手は届くことなく振り払われる。見たこともない程歪められた獄寺の顔は怒りに満ちていて、その目には戸惑うオレが映っていた。
何も言えず黙り混むと舌打ちが降ってくる。たった一回のそれはよく耳に残り心臓がどくりと脈を打った。

「まあまあ、落ち着けって」

獄寺を山本が宥める、それはよくある事。些細な口喧嘩やすれ違いの後も最初に許してくれたのは山本だった。
困ったように笑ってみんなを巻き込むように肩を組む、優しかった。

「目が覚めてよかったのな。…けどオレも今はおまえの顔見たくねーな」

目さえ合わせて貰えない。初めて見た無表情。俺の中で何かが軋んでいく。ずっと待っててくれた、けどそれに甘えて判断を誤った。

「…10代目、オレ部屋に戻ります」

「オレも戻るぜ」

向けられた背中が遠退いて行くと焦燥感にかられた。まって、たった一言が言えない。
引き留めなきゃ、そんなつもりじゃなかったんだ。でも言い訳すら喉を通らない。
オレを置いていったあの日の優羽と重なる背中。閉まったドアの音が虚しく響く。

『……』

残った綱吉は何も言わないで椅子に座りただジッとこっちを見ている。まるで見張りだ。居心地は悪いし、最悪だ。
俯き何処にも向けられない何かを拳を強く握り抑え込む。

『…出てってよ』

「…何で?」

『何でって…』

行って欲しくなんかない。ひとりになりたくない。心配してくれる誰かがいるという安心感を手放せない。
やっと出来たトモダチ。なのに、崩れていく。誰のせい?

『…ひとりになりたいんだよ!出てけよ!』

どうしたらいいんだ。こんなの初めてなんだ。避けられることなんて慣れてるのに心が悲鳴をあげる。

『あんただって、オレの顔なんかみたくないだろ!?』

綱吉は起こるどころかおかえりと言ってくれた。泣きそうな声で笑っていた。
すごく嬉しかったのに、口から最低な言葉が漏れだす。オレのせいで綱吉まで離れて行ってしまう。

『出てけ!!』

ベッドの中で蹲る。息がつまって苦しい。掴んだシーツがぐしゃぐしゃだ。いっそのことこのシーツのように俺達の関係もぐしゃぐしゃに壊れてしまえとさえ思う。なのに、どうしてだろう。

「…嫌だ。今日はオレここにいるって決めたから」

その言葉に酷く救われた気がした。本当は一番怒っているくせに側に居てくれる。その優しさが怖いくらいに身に染みる。

『…っ』

「!、どうしたの雪兎君!?どこか痛むのか!?」

『痛い!死ぬほど体中痛いっ!!…痛い…』

目の奥が熱い。閉じてもこぼれてくる涙が情けなくて痛みのせいにした。見られたくないのに勝手に出てきて自分では止められそうもない。
泣くな、泣くな。泣いたって何も変わらないと知っているじゃないか。泣いている暇があったらどうするべきか考えるんだ。

『…痛くて…嫌だ…』

このまま獄寺と山本に嫌われたままなんて耐えられない。このままではいつか綱吉も離れる。
みんなが離れていく。あの日のボクに戻ってしまう。

『…嫌だよ…助けて…』

どうしてこんなと時に限ってあいつの声が聞きたくなってしまったんだろう。

『…助けてよ…骸…』

「!」

名前を出した瞬間、また思い出してしまった。夢の中でオレを庇った骸が殺されてしまったことを。
あんな事があってよくも助けてなんて言えたものだ。弱い自分、結局は何も変われていないじゃないか。
変わりたい、強くなりたい、そう思ったのに。都合のいいときにすがろうとするなんて最低だ。

『…ごめん、クローム連れてきて貰っていい?』

「……」

『綱吉?』

「……え、な、何?」

『クローム、連れてきてくれない?』

「あ、うん!すぐ連れてくる!!」

逃げるように飛び出していった綱吉の様子が少しおかしい気がしたが、すぐに忘れた。
扉から駆け込んできた姿に止まった涙がまた出そうになったのだ。

「雪兎殿!!」

『バジル…!』

それは泣きそうな顔で右手が振り上げた。

「雪兎殿のひとでなしー!!」

乾いた音が響く。今、何が起きた?目を見開き唖然とするオレにバジルは仁王立ちで言った。

「拙者、今日だけは修羅になります。お覚悟を」 

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