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『………』
『大丈夫かい雪兎?』
優羽はベッドに倒れ込んだままの弟を心配そうに見ていた。彼は風邪をひいたのだ。それは突然で今朝方急に発熱し雪兎は力なく兄に不調を訴えた。
今まで風邪なんて…と思った優羽だったが日本での慣れない環境のせいだろうと思うことにした。あれだけ腹を出して寝るなと言ったのだ、まさかそんなはずはない。
『…大丈夫だよ。これから雲雀の仕事、手伝わないと…』
『ダメ。今日は絶対行かせない』
そんな体ではとてもではないが行かせられない。ましてやこんな弱った姿で雲雀恭弥のところになんていったら何をされるかわからない。
マフィアに関係あるものにはどんなことがあろうと油断してはならない。
『でも…行かないと…』
殴られるんだよボクが。
しかしその言葉はかすれてしまい優羽の耳には届かなかった。
顔を真っ青にしながら立ち上がろうとする雪兎に溜め息をついた優羽は覚悟を決めたように笑った。
『僕がかわりにいくから寝てな』
『いやだ…』
『我が儘は聞かないよ。いいから大人しく言うこと聞きなよ、でないと強制的に寝かすことになるよ』
久し振りに見た優羽の爽やかな笑顔に雪兎は内心おびえていた。雲雀に殴られるのも嫌だが兄のこの笑顔が一番恐い。
強制的に寝かすの意味を考えてしまった雪兎は心の中で悲鳴を上げる。
優羽の爽やかな笑顔はもう何を言っても無駄だと言うことを示していた。
世間では腹黒い笑顔とでもいうのだろうか。雪兎は半泣きになりながらもそんな優羽もカッコイイなどと軽い現実逃避をする。
『…わかった、いってらっしゃい』
『うん。いい子だね』
仕方がないと言った様子で頷いた雪兎が溜め息をつくなか、優羽は並中の制服を着て家を後にした。
【in並盛中】
『失礼します』
応接室に入った僕の視界に飛び込んできたのはトンファーだった。真っ直ぐこちらに向かって飛んでくるので受け止める。
素人にしてはいい殺気だ、そんなことを考えていた僕は静かに視線を男へと移動させる。
「ワオ!素晴らしいね君」
風紀委員長、雲雀恭弥。通称ヒバリ。
こんな手荒な歓迎を毎日雪兎は受けていたのかと思うと我ながら弟に同情する。
『お返しします』
そう言ってトンファーを投げれば彼は表情ひとつ崩すことなく言ってのけた。
「君は優羽?」
『…ええ、よくわかりましたね。メガネもかけていないというのに』
正直これには驚いた。見分けられないほどではないが初対面も同然な人間にこうも簡単にあてられるとは心外だ。
雲雀は「当たり前だよ」と言って僕に書類を渡す。不思議な人だ、でもただの偶然かもしれない。
ソファーに座り書類に目を通ししばらくは彼を観察しようと決める。
『……』
「……」
これは…観察する前に聞いておかなければならないかな。
『…さっきから何故僕の顔覗きこんでいるのですか?』
沈黙に耐えられなくなった僕は、いつの間にか隣に座り顔を覗きこんできていた雲雀に話しかける。
観察する前にされるなんて思わなかった。
彼は「気にしないで」と言い僕の顔を見続ける。
気にしないでと言われてもここまで至近距離だと流石に気にしないわけにはいかない。少しでも動けば顔が当たってしまいそうだ。
冷や汗をかきながらもヤケになって黙々と書類を終わらせていった。
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