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『…っ危ない!!』
「え?」
全てがスローモーションのようにゆっくりだった。傾く身体と目を見開く彼の酷く驚いた顔。
ああ、どうしよう何もかも終わる。
ぼやけた視界と酷い肩の痛みに歯をくいしばるが力が抜けその場に倒れた。
「ちょっ…!!なんで…」
彼は見えないが悲痛の声になんとなく表情がわかった。そして彼が無事だと知り安堵する。
奴らが来た、もう逃げ出せない。
近づいてきた複数の足跡がぴたりと止まると同時に身体が浮く。全身に激痛が走った瞬間麻痺したかのように痛みが消えた。
血を流し過ぎた、もしかしたら死ぬのかもしれない。何故か心は穏やかだった。
「その子を離せ!!」
怒り狂ったような叫びが聞こえる、それでも僕の体は動かない。やっと重い瞼を上げ顔を彼に向ける。
さよならが言えそうだ、そう思った瞬間痛みとともに怒りが蘇った。
『ダメだ!…やめて!!彼を殺さないで!!』
彼の額に突き付けられた銃口、今にも鉛玉が彼を貫こうとしている。彼の瞳を恐怖が支配している。
『何でも言うこときく!!何でも…!実験台もやるし逃げ出さないから…!!彼だけは…殺さないで…殺さないでっ!』
こんなに言葉を口にしたのは初めてだった。こんなに願うのは初めてだった。
こんなに惨めで屈辱を受けた日は初めてだった。
高らかに笑う大人達、そのあとの記憶はない。目が覚めればいつもの暗い部屋。
悲鳴と何かが燃えた腐臭に耳と鼻を塞ぐ。
そして僕への罰は実験が全て終わるまで逆らわないこと。逆らえば…
実験が終わるまでたえられるのだろうか。
死ぬことすら許されないここは地獄より酷い。
今日もまた地獄の日々が始まった。
彼の優しさが恋しくて
彼のぬくもりが恋しくて
彼の微笑んだ姿が何よりも恋しい
何もなかった僕をキミひとりが占領する
彼は僕にとってなんだろう?
でも会えない、約束なんて守れそうにない
後悔したと言えば
キミに名前、聞いとけばよかった
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