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「目が覚めたかい?」
ぼやけた視界がはっきりしてきた頃僕の目に不安げな彼の姿が飛び込んできた。ゆっくり身体を起こせばそこは柔らかいソファーの上で薄い毛布がかけられている。
彼が運んでくれたんだ、その事実が妙に嬉しかった。
『…ありがとう』
「うん…どういたしまして」
敵がこんなことするはずない、こんなに優しい人は初めてだ。優しくされたのも初めてだ。
全ての人間が残酷で汚いものだと思っていた僕には彼の存在は僕の世界を大きく動かした。
「君はどうしてそんなに傷だらけなの?」
彼は首を傾げた。どことなく不機嫌で切れ長の瞳が更に細く鋭くなる
『…な、なんでもないんだ。ただちょっと転んだだけ』
「ウソ」
『……』
彼は「まぁいいや」と言って少し怒っていたようだった。
少しだけ罪悪感を覚えたが言えるわけがない。自分はマフィアの子供で、しかもそのマフィアから逃げ出してきたなんて言えるわけがない。
どうせ信じてなんかもらえない、信じたとしても追い出されるに違いない。
僕はまだ彼の優しさに浸っていたかった。
『…ごめん』
「もういいよ。それより君はどこからきたの?」
『遠いところ、ずっとずっと遠いとこ。でも‥帰りたくない』
「だったらここにいなよ」
『え…』
彼はそっと僕に近づき頬を手で撫でて笑った。傷が少しいたかったがそんなことを気にしている場合ではない。
何て言った?彼は何て言った?ここにていいと…いった?
どうか聞き間違いではありませんように。そう願いながら伏せがちだった顔を上げる。
『…ここにいて…いいの?』
すると彼は「僕がいいって言ってるでしょ?」と綺麗に笑った。
初めて僕に居場所ができたんだって思った。
居場所、帰るところがない僕にはその言葉だけで幸せを掴んだ気がした。
嬉しい、嬉しい、すごく
『…っ、うれしい…』
「泣かないで…僕も嬉しいよ。君がいてくれるなんて」
僕は彼に遊びに行こうと言われさっきの公園へと向かった。
まるで麻薬だ、体中の痛みを忘れるほど心が躍った。
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