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「あの2人すごいな〜」
いつも賑わっているこの教室、しかし今日はどこか違う雰囲気だ。そわそわと落ち着かない生徒、机をあさり落胆する生徒、男子生徒は皆どこか女子に期待を向けている。
そんな中ひとりポツリと呟く少年がいた。
それが誰かなんて考えることすら無駄なくらいにわかってしまう。『すげーなー』とボクは頷いた。
「そう言いながらチョコ食べるのやめてよ、今すごくキミを殴りたい気分だよ」
席で頬杖をついていた沢田は隣でチョコレートを頬張るボクを睨みつけた。パキンッと音をたて割れるほろ苦いチョコレートはまるで沢田の心の悲鳴のようだと思った。
視線の先は山本と獄寺だ。いつもは女子に囲まれているなんて考えられない獄寺はウザったそうに女子から逃げている。
でも今日は一般市民からしたら特別な日なのだ、女子は諦めず彼を追いまわす。
羨ましい。沢田はそう言って机に顔を伏せる。ここまで差があるとは…知ってたけどね、切ない。くぐもった声が聞こえた。
「あの…雪兎君チョコ受け取ってくれないかな…?」
『くれるの?さんきゅー』
頬に手を当て去っていく隣のクラスの女子生徒にひらひらと手を振る。何回似たような会話をしたことだろうか、可愛くラッピングされた箱はメッセージカード付きだ。
「…気になってたんだけど、その机の横にある大きな紙袋から溢れてる大量のラッピングされた箱はなに…?」
どこか湿気を含んだ視線に答えてほしい?と唇の先を引き上げるとやっぱいいと首を振った。
甘いものは好きだが食べきれるかは別問題、仕事上の癖でまず先に毒味をしてしまうのでなんだか申し訳ない。
それ絶対に本命だから、沢田が指さしたピンクのリボンに苦笑する。
『ところでお前は誰待ち?』
聞くまでもない、もちろん沢田の視線は笹川京子に釘付けだ。
「知ってるくせに…でも無理、絶対無理だよ」
いつにもなくネガティブ思考、重いモテない男の背中がとても切ない。
とはいっても自分が好意を向けられていると思っているのではない。ただ外国からやってきた男が思春期独特の興味や好奇心でみられているだけだ。
ため息を吐きたいのは自分だが彼に泣かれるので止めておく。
『笹川さんのチョコレートの行方が気になるんだったら聞いてこいよ』
「え?」
「その通りだ、死ぬ気で聞いてこいツナ」
「でも…え!?リボ…」
バキューン。それがキューピットからだったらどれだけ喜ばしいことだったか、突如として現れた小さな小悪魔に撃たれ沢田は全力疾走で京子のあとを追って言った。
心なしか彼の悲鳴が聞こえる。
「おまえいつから気づいてた?」
ふっと銃口に息を吐いたリボーンはやはり顔付はマフィアだ。人を殺した目はどんな姿であろうが同じなんだ。
『あんた最初っからいたじゃん。保護者帰っちゃったよ、どうすんの赤ちゃんよちよちして帰れまちゅか?』
「…お前らの情報が集まらねー」
小さく殺すって聞こえた。にやっと笑うボクにリボーンは悔しそうに口をとがらす。
『それつはご愁傷様』
「ヒントぐらいくれたらどうだ?」
『ヒント?…情報がないなら秘密が多い少年でいーじゃん。直接聞いてくるなんておバカさんだな』
「それだけじゃわからねー」
『我が儘な赤ちゃんだな、じゃあ…』
これいつか本当に殺しにかかってくるかも。下手に出る彼を遠慮なく笑う。
『ボクは人間が嫌いだ』
「?……どういう意味だ」
『そのまんま』
あんたも嫌いだ。そういい残し席をたつボクの後ろからは小さく動揺の声が上がる。
片手では持ち運べない紙袋、今日から大変だ。
『…ボクも受けとってほしいよ獄寺きゅん』
机に紙袋を置き、わっ!と彼めがけ突撃する。反動で揺れる身体は大きく傾いたが倒れることはなかった。
「なっ!?バカかてめぇは!放れろ、今すぐ放れて消えろ!」
キャーと上がる女子のテンション。そしてすかさず受け取って欲しいとチョコレートを差し出す乙女。
「いらねぇって言ってんだよ!!」
獄寺は誰からもチョコを受け取らない。そう宣言し怒鳴ったが怒った顔も素敵だとファンは盛り上がる。
じゃあ雪兎君は受け取るの!?
誰が言った言葉だったのだろうか。その瞬間顔を真っ赤にした獄寺は
「んなもん受け取るかぁぁぁっ!!」
と叫んだ。ちょっとした悪戯なのにものすごく怒られた。
「雪兎君…!あの…チョコ受け取って下さい!!」
いつの間にかまたひとりチョコを差し出す女子生徒。獄寺にではなくボクにだ。
ありがとうとだけ言い受け取ると彼女は微笑み教室を出ていく。
なんて女の子は可愛いのだろう、癒された気分だ。
どうせ手は届かない、住む世界が違う。そう考えるたびにいろんなものに憧れてしまう自分が嫌いだ。
「雪兎は人気なのな」
そういう山本も数知れずチョコレートを受け取っている。人の気もしらないで酷いことを言うものだ。
ボクにとってはここは非現実でしかない。
「まあオレ的には雪兎から欲しかったけどな」
『アハハ!素晴らしい冗談で』
山本は軽く溜め息をついて笑う。それを獄寺は少し気の毒そうにみていたが、何故かすごく嬉しそうだ。
「それで10代目はどちらに?」
『さっき帰った』
「それを先に言え!」
「オレ達も帰るか」
『そーだな』
今頃笹川京子のストーカーになってるんだろうな。少し早足で帰宅路へと足を進めた
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