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「今日あたり満開だってな」
それはよく晴れた日のこと。澄み切った青空がどこまでも続いていて心地よい風が吹く、誰もが認めるあたたかい日だ。
『ボク花を見に行くなんて初めてだよ。なんかテンション上がってきた!』
「ったくいちいち騒ぐんじゃねぇよ。10代目、まだ早朝ですし最高の場所をゲットできますよ!」
そういって沢田の隣りをキープする獄寺もなんだかんだ楽しそうだ。その後ろを山本、そして優羽が続く。
『それにしても済まないね、雪兎の我儘で僕までついてきてしまって』
銀色のフレームがきらりと反射するがそれ以上にまぶしいのは優羽の微笑み。少し困ったように頬を緩ませる彼に獄寺と沢田は思わず照れてしまう。
「そんなことないですよ!優羽さんが一緒でオレ嬉しいです!」
何故僕はここにいるのだろう。優羽は楽しそうに談笑する彼らを見ていた。
彼らは見れば見るほど僕らとは無縁だ、とてもマフィアの人間とは思えない。そしてその子供たちとともにここにいる自分自身の行動も不思議でたまらない。
まあ、たまにはいいけど。
「うわー!すごいや」
ふと上を見上げれば綺麗なピンク色。どうやら並盛中央公園についたようだ。
ほのかに甘い香りが風に運ばれ通り過ぎていく、果たしてこの人生でこんなにも美しい景色を見たことがあっただろうか。優羽は掌にのった柔らかい花弁を地面へと落とす。
『…コレが本物なんだね』
『ああ…とても美しいね』
雪兎の小さな呟きを拾い優羽はいつもの愛想笑いさえつくることを忘れ頷く。
『でもなんか寂しいね』
この輝きは今だけなんだ、雪兎は踏まれより鮮やかになった花弁を見つけ小さく笑った。
「ここは立ち入り禁止だ」
聞き慣れない低い声が妙に響いた。静かなその場所は水を差されたように雰囲気を変える。
男の格好には見覚えがあった、それは並中の風紀委員の正装の学ランだ。
人の気配がなかったのはこの所為か、雪兎は納得したようにあたりを見回す。
桜並木一帯の花見場所は全て占領済みのようだ。
ここは雲雀の私有地か?否そんなわけがない。
「おいおいそりゃズリーぜ」
「誰も話し合おうなんて言っちゃいねーんだよ、出て行かねーとしばくぞ」
「ひいいい!!」
スッと獄寺が不良を蹴ろうと前に出ようとしたが急にあたりをつつんだ殺気に体が止まる。
山本も警戒しあたりを見渡すがその原因はよく知る人物だった。
「…優羽…さん?」
沢田が動かない体のまま小さく声を出しその人物の名を呼んだ。
優羽の隣の雪兎は今にも泣き出しそうにうずくまって頭を抱えて怯えている。
ハハッと笑いゆらっと不良に近づく優羽は優雅で足音を立てない。
その姿は妙に美しかったのだが一瞬で視界から消えた。
「「「!?」」」
いや消えたのではない。見えないほど速く不良に回し蹴りをくらわしていたのだ。
『桜がみれて気分がいい。でも邪魔したキミが悪いよ。良かったね機嫌よくてさ、でないと君がこの後どうなってたか僕もわからない』
「優羽…さん!?」
『あ〜…優羽、ちょっとやりすぎ』
『そんなことないよ、けっこー加減したもん』
「「「……」」」
『さあ、楽しもうか』
ふたりの会話についていけない3人はそろって立ちすくむ。なんだ今の常人ではありえない動きは。
「(優羽さんって何者?)」
「(はっ!まさか宇宙人!?未確認の新たな人種か!?)」
「(いやそれはないから)」
「ホント優羽って素晴らしいよね」
今度は誰だ?聞き慣れ始めたあの声に雪兎は肩を落とした。
「ままままさか、ヒバリさん!?」
桜の木に寄りかかり腕を組みこちらをみている雲雀を見つけ沢田が慌てて声を上げる。
どことなく嬉しそうに笑う雲雀の瞳には優羽がうつっていた。
「じゃあこいつ風紀の奴だったのかよ」
獄寺はあまり雲雀が好きではないらしく敵意むき出しだ。しかし雲雀は気にしていないようでむしろ好戦的な視線だ。
「僕は群れる人間を見ずに桜を楽しみたいからね、彼に追い払って貰っていたんだ」
『ふーん、おかげさまで優羽ったら一瞬キレちゃったけどね』
雪兎は肩をすくめてみせる。先程のことを思い出した沢田達は顔を真っ青にした。
微かに沢田の体が震える。
「そうなの?」
横目で優羽をみるとアハハと苦笑いしていた。
『僕の邪魔する奴は消すけど雲雀君も邪魔するかい?』
「僕は君の邪魔はしないよ。本当は君を誘うつもりだったけど手間が省けた。そうだ、彼は役に立たなかったし優羽の邪魔したんだってね。弱虫は土にかえさないと」
『(って、あんたの命令がそうさせたの気付いてないのかよ)』
雲雀がトンファーを振り上げ下すと同時に鈍い音。不良は気絶したようで動かなくなってしまった。これは痛い、雪兎は頭を抱える仕草を見せる。
「な、仲間を…」
雪兎は面白がったように笑うが優羽以外は驚愕の色を浮かべていた。
「見てのとおり僕は人の上に立つのが苦手なようでね、屍の上に立ってる方が落ちつくよ」
優羽は『屍は美しいからね』と危ないことを呟いて微笑んでいる。それをまた聞いてしまった3人の血の気が引いた。
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