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PiPiPiPiPiPi…

日本にきて冬の雪と春の桜を見届け早数ヶ月。あたたかいとはとても言えないような熱気に包まれた夏がやってきた。

『今日も暑いなー…』

窓を全開にして寝転びだらける少年の姿がここにはあった。
アイスをいくつも平らげたのかごみ箱には大量のカップと使い捨ての紙製スプーンが捨てられている。

湿ったような空気がより一層温度を感じさせる為薄っすら汗をかいていた。そして何をする気にもなれないと、眠りにつこうとしていた時それを邪魔するように携帯が鳴った。

『…只今電話に出れないほど睡魔が襲いかかって来ていますピーと言う発信音のあとにメッセー「海へいくぞ」…はい?』

受話器の向こう側から聞こえてきた声は幼い子供の声だ。画面の表示には最近登録したばかりの名前がある。

「さっさと支度して優羽も連れてこいよ」

突然何をいいだすんだこの赤ん坊は。文句のひとつやふたつ言ってやりたいが生憎暑さで思考が回らない。

『…やだよ眠い、しかも命令口調とかこれ決定事項なの?拒否権くれよ』

「優羽の隠し撮り写真3枚でどうだ?制服で授業を受ける姿はレアだと思うぞ」

そんな手に引っ掛かるとでも思っているのだろうか。クツクツと笑う少年は一呼吸置く。

『海でも地獄でもお供しましょう!!』







なんて爽やかな夏なのだろう。照り付けるような太陽の下で満面の笑みを浮かべた少年、雪兎は自分の愚かさを呪っているところだった。
暑いどころではない、倒れそうだ。寒いのは平気なんだけどなと砂浜を睨みつけるように歩く雪兎であるが写真は入手済みだ。

「やっぱ夏はいいのな」

「じじいかてめーは…」

青い海が広がる砂浜は沢山の人で溢れている。海で涼む、皆考えることは同じようだ。

『もし雲雀がいたら血の海だよね』

『まあ、いるとしたら誰もいない穴場か風紀委員が貸し切り状態だろうけどね』

「あはは…まさかそんな」

そしたら少しは涼しくなりそう、物騒なことを考え始めた雪兎に冗談がきついと沢田が食いつく。

群れるのを嫌う彼ならプライベートビーチくらい持っていそうな気がすると優羽が冗談で言うが沢田の頬が引き攣る。
いったいどんな中学生だと思ったがヒバリならやりかねない、あれはなんたって並盛最強の風紀委員だ。

立てたパラソルの下へと座る優羽は海にも勝る沢田の青い顔を見て二コリと笑う。それが余計に妄想を書き立たせた。
バカだな、兄に遊ばれている彼を見て思う。

優羽と雪兎は日焼けが嫌なのか、それとも別に意味があるのか水着はきていない。

「で、笹川のアニキ泊まり込みでここに来てんだって?」

準備運動がすんだのか早く海に入りたいと山本が笹川を捜す。今回は皆笹川了平に呼ばれたようだ、妹である笹川京子、そして三浦ハルの姿もある。
別に呼んでくれなくてもよかったのに、優羽はフルーツジュースを飲みながら走り寄ってくる男をぼんやりと見ていた。

「よく来たなお前たち!!」

熱い男はどこにいても熱い。これも一種の才能かと優羽は涼しげな瞳の奥で考える。何故か肩を掴まれた雪兎はどこか鬱陶しげに一歩身を引く。

「ライオンパンチニストで並盛のランブルフィッシュは夏の一時をライフセイバー見習いとしてすごすのだ!!」

『ライオンなのに魚なのか?』

『僕に聞かないでよ』

「あの妙な動きで溺れた奴を助けられるんか?」

『妙な動きってなんだい?』

獄寺によると笹川の兄の泳ぎはメチャクチャらしい。笹川本人は全く気にしていないというか気づいていない。

得意なのはボクシングだけか、優羽の脳内にまたひとつどうでもいい情報が追加された。

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