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【一年前 とあるイタリアの街】



『ここにあの羽馬がいるの?』

『跳ね馬…ね』

『そうそれ!』

街の片隅にある暗く人がよりつかない裏道でふたりの声が微かに聞こえた。黒いロングコートに白い不気味な仮面の姿の二人組は見るからにあやしい。

「おいお前ら手を貸せ!」

『『!』』

ふたりは驚いた。今は真夜中で普通ならば街を彷徨くような人間はいないし。ましてや、かけられた声が高いソプラノの小さな少年のものだ。

油断していたとはいえまさかこんなにも近くに人がいた事にふたりは苦笑していた。

『やぁ少年こんな時間に彷徨くなんていけないな』

若干背の高い不気味に笑う白い仮面を付けた方…優羽が不適に笑う。だが仮面により笑ったことなど小さな少年にはわかるはずもない。

『危ないから帰ろうな。危ない奴だっているんだからさ』

もうひとりは…雪兎はしゃがみこみ少年の目線に合わせて言う。だがはっきり言ってふたりも格好からして十分危ないのではないかと優羽はふと思ったが口には出さなかった。

少年は少し考えこんだあと顔を上げた。

「オレを…オレを弟子にしてくれ!!」

『…んー…どうして?』

呆気にとられていたふたりだが優羽がいち早く我に帰り理由を聞き出そうとする。だが少年は黙り込んでしまった。

『よくわからねーが帰りな。お前の母さん心配してるだろ?』

雪兎はそう伝えると優羽は『気をつけてね』と少年に背を向ける。

少年からは少しずつ距離が離れていくが

「…っ!みんな…!みんな殺されちゃったんだ!!」

悲痛な叫びにふたつの影は進むのをやめて振り返った。







『そういうことか』

どこかの物置のようなところに優羽と雪兎、そして少年がいた。


少年の話はこうだった。

つい最近この街にマフィアが来て暴れていった時のこと。彼らは酒を飲み、気に食わない住民を容赦なく殺していったが跳ね馬ディーノの速い対処により街は守られた。

しかし運悪くこの少年の家族は巻き込まれて息絶えた。母親は少年を守るように死んでいったと言う。

赤ん坊である妹は奇跡的に助かったらしいが父親もいない自分には負担にしかならなかった。

「敵討ちがしたいんだ!みんなを殺した奴らを…!!」

『復讐…ってわけか』

雪兎は仮面の下で微かに表情を歪ませていたが話を聞き終わった優羽は特に心を乱さなかったようだ。共感も嘆きもしない。
ただ最後まで話を聞いていただけ。

「だから!オレを弟子に…!!」

『断る』

「なんでだ!!?」

優羽の冷たい言葉に少年は涙する。震える声を振り絞り力いっぱい叫ぶが優羽は首を縦には振らない。

『優羽…』

わかっていたことだったが雪兎は動揺していた。
少年の気持ちも痛いほどわかる、自分にも生きるすべがわからなくなった時がある。過去を少年と重ね気分が沈んだ。

優羽は優しい。だから誰よりも少年の気持ちは理解しているはずだと思っていた。

「憎い!あいつらなんか…家族を奪ったあいつらなんか…!!どうして…どうしてオレだけこんな思いをしなくちゃならないんだよ…!!」

少年は頭を抱えこの世の終わりだと叫ぶが優羽は仮面の下で確かに笑った。

『それを忘れちゃいけないよ』


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