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丁度一年前の冬。
僕らはいつも通りイタリアで仕事を続けていた。
暗い闇が空を包み込む頃、人目に付かない森の中でマフィア同士の殺し合いを始めていた。もちろん一方的に僕らが殺すのだけれど。
『優羽!足音がする!2人だ』
最後のひとりもきっちり息の根を止め雪兎は声を上げる。味方などいない僕らには敵しかいない。だからこの近づいてくる足音も敵で間違いない。
しかし逃げるにしても足場が悪い。視界も悪く追いつかれるのは時間の問題だ。
『…ちくしょう、真っ直ぐくる』
迷わずこちらへと向かってくるあたりこの土地を知り尽くしている者だ。この場を離れたいが下手に動くと逆に追いつめられてしまい逃げ場がなくなる、余計に不利な状況になってしまうだろう。
『雪兎、上に』
僕らはとっさに高い木の枝に乗り身を隠すことにした。
念には念を。実験によりスキルを使わずいつでも幻覚をつくりだすことができる特殊な体質の僕が空間を歪ます。
だが一時的なもので強いものではない、しかし下手に強い幻覚で風景を変えてしまえば逆に怪しまれてしまう。
これはなかなかの危機的状況だった。
「こっちだボス」
男の声が聞こえた。その後ろからは金髪の青年、僕らより年上の男が草木をかき分け姿を現した。
あれは間違いなく跳ね馬だった。
民からも信頼を寄せられる跳ね馬ディーノ率いるキャッバローネファミリー。
そう言えばここ一帯はこいつらキャッバローネの庭だ。戦闘の悲鳴で駆けつけたのだろう。少々暴れすぎたようだ。
「こいつはひでぇ…」
跳ね馬は屍を見ながら驚愕の色を浮かべ悔しそうに唇を噛む。
どうやらファミリーの者だったらしいがこっちには関係ない。どこのファミリーだろうと誰だろうとマフィアを消す。
一様これでも仕事という名目だ。
そんなことを考えるとふと笑みが零れてしまう。人を殺しても平気な僕は人として狂っているのだろうか。否答えは既に出ている。
「出てこい…いるんだろ」
「…どうしたんだ?」
突然の跳ね馬の言葉に隣にいる部下らしき男は戸惑ったように声を上げた。もちろんそれは僕らに言っているのだろう。
流石と言うべきなのかな?
気づかれているのだからしょうがない。いざとなったらアイツらを消そう。
僕と雪兎はお互いに顔を見合わせ頷き合うと静かに木から飛び降りた。
『ハジメマシテ』
「!!」
跳ね馬の部下はとっさに銃を向けるがそれを跳ね馬が止める。
「白い仮面…marionetteしかいないな、ロマーリオ下がってろ」
ロマーリオと呼ばれた男は数歩下がるが敵意はしまわない。場の雰囲気は険悪とも穏やかとも言えずただ静かだった。
相手は跳ね馬、下手に動けばこちらもただでは済まないだろう。
どうしたものか…
『何しに来たの羽の根の馬と書いて羽根馬、ボクらを殺しにでもきたの?』
『違う、跳ねる馬と書いて跳ね馬ね』
『…今日も晴天だね!』
雪兎は軽く焦りながらはぐらかすが無意味だ。顔がかなり引きつっている。
それにしてもバカだ、わざわざ字まで考えていうあたりがバカだ。我ながらバカな弟に苦労する。
「…ぷっ…クク…アハハハハハ!!」
『!?』
急に腹を抱え笑い始める跳ね馬。後ろにいる部下は声を抑えているが顔は笑っている。
何だか恥ずかしくなってきた、いろんな意味で。
『なっなっななすか!?』
『何を言ってるんですか』
『ボ、ボボクたっ、ジョックで!!』
『ボクはただジョークのつもりで』
「ひぃーっハハハハ!アッハハハ!!…ゲホッ、ゲホゲホ!」
雪兎は怒ったように跳ね馬と僕に背を向け拗ね始める。かなり傷ついたようだ。
ホント雪兎って…バカだな。
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