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「クフフ…」

独特の笑い声が静寂に包まれた室内へと響いた瞬間口元を押さえ雪兎は背を丸める。
そんな弟の背をさすろうと思ったが優羽は動けずにいた。骸の目が動くなと言っていたからだ。

「初めから知ってましたよ。貴方達がマフィアに成り下がっていることぐらい」

ふたりは感情を失ったように表情が消える。ただひたすら脳内であの言葉が繰り返されていた。

裏切り者

この言葉はふたりを壊すのに十分な言葉であるが骸は先ほどからとくに変わった様子もない。常に哀れなものをみるような酷く優しげな瞳だ。

『…そうだね、キミが気付かないはずがない。僕らは裏切り者で…』

「クハハハ!!本当にバカですね」

優羽の言葉をかき消すように骸は言葉をかぶせた。雪兎の瞳は大きく揺らぐ。

「誰が裏切り者だと言うのです?」

『え?だからボクたちが…』

「わかっていませんね」

骸は大袈裟にため息をつく。それを見ていた優羽はイラついたように声を上げた。

『僕たちは裏切った!僕たちはこの世界でしか生きられなかった…!』

「クフフ…それがどうしたと言うのです?」

静かに通った声が響きわたる。怒りにも聞こえた声は優羽を深く沈めた。

「いいですか?理由はどうあれ優羽、雪兎は今僕達のところにいる。生きていてくれただけで十分ですよ」

『…骸』

「それにふたりが生きるためならばそれがマフィアだとしても裏切りにはなりません。ふたりが死んでしまうことが僕たちにとっての裏切りです」

『許して…くれるのかい?』

「許すもなにもありませんけど…そうですね?折角ですし、誓って頂きましょう」

骸はふと思いついたように笑みを零す。優羽と雪兎はお互いに顔を見合わせて頷いた。

『いいよ。誓う』

『決してボクらは二度と裏切らない。たとえどんなことがあろうとも…骸達を信じて生きていく…』

雪兎の言葉に嬉しさを隠すことなく骸は微笑んだ。その微笑みは酷く優しいものだったが酷く悲しいものでもあった。
ふたりを縛ることが許された優越感と小さな罪悪感が骸の中で渦を巻く。


いろんなものに縛られていくふたりの心

決して光のあたることのない世界

しかし彼らは偽りでも笑顔だけは絶やさなかった。


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