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優羽は上機嫌だった。
苛立ちもすっかり消え身体も軽い。
あれは自己満足だ、少しやりすぎたかと思ったが悪行を働いていたことは確かなのだから問題はないだろう。
そもそも誰も殺してはいないのだからあれはただの喧嘩扱いだ。
そう正当化した優羽はやはり機嫌がいい、返り血で赤く染まった服を気にせず夜道を歩く。
「まちなよ」
『…何かご用ですか?』
走ってきた雲雀にしっかりと会釈して挨拶をする優羽だが、にやけたような顔は崩れることはなかった。
「あれ全部君がやったのかい?」
雲雀は不機嫌なのか機嫌がいいのか表情が読み取れない笑みを零している。だが不安そうにも揺れる切れ長の瞳は優羽を真っ直ぐ見つめていた。
優羽は少し驚いたようだったが、服についた血をみて言い訳をしてもしょうがないと頷いた。
『彼らは運が悪かっただけだよ、僕の暇つぶしに参加してもらったんだ』
「…君はいったい何者?」
優羽は少し考える素振りをしてはっきりと言う。
『何者なんだろうね?ただね、人間じゃないよ。それより何で他人の君にこんなこと話さなきゃいけないの』
少し悲しそうな表情は直ぐに消えてしまい何時もの笑顔に戻った優羽。
雲雀は微かに揺らぐ優羽の瞳をみてなんとも言えない感情に支配されていた。
「君は…誰、彼なの?」
何故知らない人に声をかけ咬み殺していない自分がいるのだろうか。
もしかしたら…
もしかしたら彼かもしれない。
しかし目の前にいる男には自分が捜している人の面影はどこにもない。
『悪いけど初対面だし、言ってることがよくわからないんだけど』
雲雀の表情をみて優羽はクスっと笑いその場をあとにした。
『すべてを知ったらどんな顔するだろうね』
まぁ…知る日が来るなんて到底思えないけど。
いつの間にか笑みは消え、全くといっていいほど感情のない顔。
背を向けた方からは花火が上がり夜空を飾る。しかし綺麗に咲くのは一瞬だけだ。
輝き、光は一時的なものでしかない。
優羽は背を向けたまま家に続く道を歩く。その顔には愛想笑いが戻っていた。
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