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「うわぁああああ!!」

また絶叫が響いた。

ここはエストラーネオファミリーの研究室だ。薄暗い部屋にあるのは実験の為の器具や対象物を照らすライト。そして傷だらけの古びた手術台が異様な存在感を醸し出している。

現在その台の上で子供が自らの手で喉を引き裂いていた。
その子供には自我や意識などはない、ただひたすらに襲い来る衝動を抑えきれず手を赤く染める。

部屋の隅で身を寄せあっていた幼い子供たちは友の変わり果てた姿に絶句する。

ある子供は膝を抱え母親の名前を何度も壊れたように繰り返す。
そしてある子供は死んだようにピクリとも動かなかった。

助けはこない、誰もが知っている。


そんな中にふたりの兄弟がいた。
兄弟はいつも一緒で仲がとてもよかった。否そうしなければならなかった。

ここは確かにエストラーネオファミリー。ファミリーなのに誰一人としてふたりを守ってはくれない、信じられる人間はどこにもいない。

「また失敗だ…何故失敗なんだ…」

白い白衣を着た研究者は何度もその言葉を吐き捨て次の子供を連れて行く。子供は反抗出来ず台へと乗せられ鎖で固定され成すがままだ。

兄弟のうちひとりの少年はその連れて行かれた子供をみて恐怖を覚える。
今日はこれで何人死んだことになったのだろう。虚しくなり途中で数えるのを止めたことを後悔した。

『ボクら…どうなっちゃうの…?』

答えは知っていた。火達磨になり床を転がる姿を目も端でとらえ身震いする。あれが結末だ。

『…次は…僕が連れていかれるみたいだね』

背中合わせで座っていたもうひとりの少年が呟いた。それに過剰反応した少年は声を荒げる。

『そんな!!イヤだよ優羽!死んじゃイヤだ…!』

『…僕は逆らえないんだ、言っただろ雪兎』

痩せこけた頬に何日も寝ていないような隈が色濃く浮いている。頼りない笑顔で雪兎の頭を撫でる優羽の腕は今にも折れてしまいそうだった。

『でも…あんなの…っ』

生き残るなんてできないじゃん

後に続きそうになった思いを吐き出すことなく飲み込むと涙がでた。
優羽は落ち着いた様子で大丈夫だからと宥めるが説得力はない。





数時間後、響きわたっていた少年の叫び声は電池が切れたように消えていた。

部屋には肉が焼け焦げたような異臭が充満し、全身爛れた死体が無雑作に捨てられている。

「また失敗だ役ただずめ。次こそ…」

研究者は優羽の前に立ちついて来るように促した。もちろん優羽はついて行くしかないのだ。立ち上がった瞬間に棒のような真っ直ぐな足が雪兎には人形のように思えた。

『…イヤだ…つれていかないで…つれていかないで…っ!』

雪兎の苦痛の叫びも虚しく優羽の姿は見えなくなっていく。どうやら別の部屋で実験を行うようだ。


『…っ!いやだああああああああ…!!』


最後にこの部屋で見たのは小さく手を振る優羽の笑い顔だった。

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