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【in黒曜ヘルシーランド】



手入れされることなく長年放置された庭には草が生い茂っていた。その中心にある古くボロボロになった建物は隙間風がありとあらゆる場所で吹いている。
その騒音はまるで巨大な生き物が息を潜ませているようだった。

「やぁ」

ここはとある一室。返り血を浴び黒光りする学ランを着た少年、雲雀恭弥は両手にトンファーを持ち立っていた。

「よくきましたね」

その声に応えたのは男の声だった。だが暗いその場では顔が見えないため少年か青年か判断が出来ない。

「ずいぶん探したよ、君がイタズラの首謀者?」

「クフフ、そんなところですかね」

独特な笑い方。そして一瞬で笑みを消し親の仇でも見るように睨む。

「君が彼の大切な人ですか、なんて憎たらしい」

「彼の大切な人…?どういう意味だい」

雲雀は憎悪混じりのその視線を受け、切れ長の瞳をよりいっそう細めながらトンファーを構える。

「おや、気づいていないのですね。優羽はとっくに気がついていると言うのに」

「!?…その話し詳しく話してもらう」

雲雀の顔から笑みは消えた。
最初は自分と誰かを勘違いしていると思っていたがどうやらそうではないらしい。

確かに今聞いた名は知っているものだ。
この男は彼のなんだ?大切な人とはなんだ?

雲雀の中で渦巻くものは疑問だけではない。自分の知らないものを比べ物にならないほど男が持っているという事実への嫉妬心がじわじわと身体を支配する。

「クフフ、僕が君に話すとでも?」

「咬み殺してから洗いざらい話させてあげるよ」

そして雲雀は少年に向かって走り出した。







『派手にやったね骸…って雲雀!?』

「おや、もう来てしまいましたか。お楽しみはこれからだと言うのに」

ドアの前にふたりの少年が立っていた。それは雲雀の記憶にある少年の姿。

「…優羽」

「おっと、動かないで下さい。まぁ立てる力など残っていないようですけど」

骸は雲雀の髪を掴み顔を上げさせる。切れた唇から赤い滴が静かに落ちる。

『これはどういうことかな?』

周りは桜で埋め尽くされていた。淡いピンク色が宙を舞い幻想的で美しい。その夢の中のような場所に一歩踏み込めば甘い香りと血の臭いが広がった。

骸は優羽から感情を読み取ることができなかったが僅かに釣り上ったその眉に小さく笑った。

「クフフ…彼は知りたがっているようでしたよ?」

『余計なことしないでくれないかい、これは君には関係ないことだろう』

「おや、怒られてしまいました。でもこれは一様正当防衛なので許して下さいね」

一歩的にやられたように血に汚れた雲雀を見て骸は掴んだ髪に力を込める。皮膚が引っ張られ切れた頬や頭から更に血が流れる。

その痛々しい姿に雪兎は病気というものの恐ろしさを知る。幻覚の桜は満開だ。

『ところでさっきからなんの話してんの?』

『知らなくていいんだよ』

『そーいわれると知りたくなるんだけど』

首をすくめ呆れたように骸を見た後、優羽は静かに部屋を出ていった。その後ろ姿を雲雀は黙ってみているだけだ。

雪兎は少し考えたあと『なる程』と雲雀を見た。少し驚いたようにも見える表情はふざけた様子はない。

『ってことは雲雀先輩だったんだな。骸は知ってたのかよ』

「ええ、優羽よりは遅いですけどね」

雲雀はわからなかった。いったいどういうことなのか。
優羽と何か関係あることは確かなはずだがその本人は顔を背けたまま出て行ってしまった。

「…教えなよ」

『いいのか?…どー思う』

「クフフ…話すなとは言ってなかったですしいいんじゃないですか?」

雪兎はチラッと雲雀をみたあと溜め息をつき、どこか嬉しそうでどこか悲しそうに目を細めゆっくりと前に歩き出す。


じゃあ、昔話でもしようか

よく聞いといてよ雲雀先輩

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