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『何処にいくのさ優羽?』

長い尻尾を揺らす白猫についていくこと数10分。ついた先は並盛中だった。校門の前に立ち止まった雪兎は思いっきり顔をしかめたあと立ち止まることのない猫の後を追った。何故ここに?
そう言おうとしたが何となく嫌な予感がよぎったため言葉を飲み込んだ。

『応接室だよ』

『見ればわかるっしょ…』

猫はドアを開けて開けてと雪兎の足に体をすり寄せると、小さな溜め息と共にドアが開いた。
猫は素早く応接室へと入りソファーの上へと飛び乗り座る。雪兎もそれに続き入室したが風紀委員長はいなかった。

『…まさか雲雀に会って来るとか?』

『流石雪兎だ感が冴えてる』

『でも優羽は猫だよねぇ、追い出されるんじゃねーの?』

すると猫は笑った。

『だから雪兎は大人しくしててね』

『え!?んなっ!!?』

暫くしたあと応接室から出てきたのは爽やかに笑う少年だった。






『いたいた』

応接室にいた少年は爽やか笑顔を保ったまま屋上へと来ていた。言葉は音符がつきそうなほど楽しげだ。
屋上は最早戦場と化していた。その原因となる闘っているふたりには見覚えがあった。

『跳ね馬と風紀委員長…か』

「よお、少年」

フェンスに背を預けていたロマーリオに声をかけられた。隣に行けばロマーリオの手にある缶コーヒーの甘い香りが鼻孔をくすぐる。

『跳ね馬が風紀委員長の家庭教師?』

「まーな、なかなかいい感じだろ」

『ええ…そうですね』

どうやらふたりは少年の存在に気づいていないようだ、それほど戦いに夢中になっているのだろう。
跳ね馬の動きも頭脳プレイも流石ファミリーを従えるボスと言ったところだ、風紀委員長の攻撃をギリギリでかわしていく。しかし風紀委員長も劣らず機転の良い攻撃で跳ね馬を追い詰めていく。

『風紀委員長は楽しそうですね』

「そうか?オレには仏頂面にしか見えねーがな」

『いえ、心底楽しそうですよ』

少年は苦笑いをしたあと俯いた。何故かふたりを見ているとなんとも言えない感情に押しつぶされる気がしたからだ。だが何でもないのだと顔を直ぐに上げた。
そして確かに久しぶりに見る少年の姿に小さな恐怖を感じた。

「…って!!てめー本気で殴りやがったな!?」

「当たり前でしょ」

一時的に距離をとったふたりは相手の出方を見ている。お互い呼吸は乱れていないようだ。

「…なんで雪兎がここにいるの」

風紀委員長がチラッと視線を向けた先はロマーリオの隣で顔をひきつらせている少年だった。それに気づいた跳ね馬ディーノは嬉しそうに笑みを浮かべた。

『そうだなぁ、ただ遊びに来ただけかな』

少年は直ぐに笑みを浮かべおどけてみせた。それを不快に感じたのか風紀委員長はトンファーを少年に向ける。

「ふざけてるの?咬み殺すよ」

『別にふざけてねーし』

「何拗ねてるの」

『拗ねてませーん』

少年は背を預けていたフェンスに手をかけて空を見上げた。どことなく不機嫌な雲雀は走り出しディーノを殴りにかかる。

「何だよ恭弥!八つ当たりか?」

「黙れ、あと気安く名前で呼ぶな」

少年は空を見上げたまま小さく顔を歪ましていた。ロマーリオは眼鏡のズレを片手で直したあと笑う。

「青春だねぇ」

『意味がわかりません…』

少年はいまだに抑えきれない何かを感じながらも静かに歩き出した。屋上から出るためドアノブに手で触れ開けたが、一度立ち止まり後ろを見た。
歪んだ笑みを浮かべて。彼の姿を瞳に焼き付けるように。

「雪兎まちなよ、今咬み殺してあげる」

聞こえてきた声に思わず涙が出そうになった少年は背を向け顔を隠した。

『この僕を咬み殺す?随分と笑わせてくれる。君じゃ無理だ…出直してこいよ』

「…!?」

雲雀は閉まるドアの方へ走り出したが何かが目の前に立ちふさがる。

「恭弥!まだ終わっちゃいねーぜ?」

ディーノは笑う。しかし雲雀はありったけの殺気をだしディーノを睨みつけた。

「邪魔したこと、存分に後悔しなよ」







ドアを閉じたあと少年は溜め息をついた。

『何してんだよ…っ、八つ当たりとか最悪じゃん』

かすれた声は校舎に吸い込まれるように消えていった。




ただ、気づいて欲しかったんだ

僕の存在を君に…。


まだ、謝れそうにない


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