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『昨日までリング争奪戦を知らなかっただって!?』
深く吸い込まれそうな暗い青、星が光を放っている夜空の下。並盛中、屋上のフェンスに背を預けていたボクは思わず声を上げた。
それ程彼の言葉は衝撃的だったのだ。
「興味なかったから」
隣にいる彼、雲雀恭弥は飄々と言ってのけたあと大きな欠伸をひとつした。いつもよりも冷たく強い風が雲雀の学ランや黒髪を揺らしている。
愕然としているボクに向かって雲雀はつまらなそうに瞳を細めた。
「皆殺しにすれば早いのに」
どうやら自分の好きなように手が出せないのがつまらないようだ。
『そういうことは言わない言わない、一様大切な戦いらしいから』
「その言い方、他人事だね」
『別にいいだろ何でもさ』
別に他人事ってわけではない。
ただボンゴレに関わっているということを考える度に、認めたくない、ボクは何をしているんだ、そうな自分がいた。
それだけだ。
早く現実を受け止めなければならない。小さな焦りがボクの中にうまれた。
屋上から見える、ある校舎に目を向けた。
校舎の入り口と窓は開かないように頑丈に塞がれていた。どうやらその校舎全体がフィールドらしい。
丁度綱吉達が入っていったのが見えた。怪我の酷い獄寺隼人も来ているらしいがランボの姿は見えなかった。
『いいんですか先輩?もう好き放題やられてますよー』
「破損は全部直すって言ってたからいい」
『…あっそ』
ちらりと校舎を見たあと雲雀は少しだけ眉を寄せボクを睨むように顔を上げた。今日のリング争奪戦は雨の守護者。
山本武とS・スクアーロの死闘を繰り広げることになる日だ。スクアーロは強い。山本はどう戦うつもりなのだろうか。
「……霧?」
『…霧だ』
急に視界が悪くなった。風がピタリと止まったと同時にボクと雲雀を包み込むようにかかった霧。
まるで何かを隠すように次第に濃くなっていった。
上を向くと冷たい何かが頬にあたる。
地に落ちたそれを拾えば、桜の花びらをかたどった雪だとわかる。しかし直ぐに溶けて霧に戻っていった。
近くにいるんだ、優羽。
ただ優羽の他に誰かいるのかもしれない。広範囲でかかっている霧に警戒しつつも視界の回復まで待った。
勝負が始まった頃には霧は薄れていた。
だが霧はかかったままだ。校舎の壁に設置された巨大スクリーンにはスクアーロと山本が映し出されている。
『山本、勝てると思う?個人的には実力はスクアーロが上だと思うけど』
「勝たないと咬み殺す」
『わかった、わかったから先輩トンファーしまってって。ボクに向かって構えないで』
「……」
『何さ。そのしょうがないねみたいな顔!』
スピーカーから爆発したような大きな水音が鳴り空気を震わした。
スクリーンに映し出された室内フィールドは原型を留めていない、水が上の階から流れ小さな滝がいくつもできている。足元には動きを鈍らせる程の大量の水が溜まっていた。
『時雨蒼燕流は完全無欠最強無敵…』
果たして本当なのだろうか。ボクは静かに勝負を見守った。
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