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雪に埋もれた体は動かすことはできない。
指先の感覚などとうに消えていた。毒で熱いはずの体は凍えるように冷たい。
あれからどのくらい時間がたったのだろうか。短い時間のはずなのに永遠のようにも感じられる。
正直目を開けているのもつらい。誰かの声が聞こえる。
しかし顔が雪に埋もれ声が出ない。雪兎を助けてあげてよ、そう声に出したかった。
でももしかしたら今の声は幻聴なのかもしれない。もう声は聞こえなくなってしまった。
こんな雪のなかじゃ僕ら兄弟見つけるのは難しそうだ…
「うわぁあぁあぁああぁぁああ!!」
まただ。また誰かが叫んでいる。
今度は誰なんだろう。
何回叫び声を聞いた?
…もう数えきれない程聞いた気がする。
この薄暗い世界に響く声は全て僕の耳に残り精神を破壊していく。
俯いていた僕が顔を上げると、隣で声を押し殺し泣いていた弟が服の裾を引っ張ってきた。
「うわぁあぁあぁ…!」
炎で体を包んだ人間が苦しみ、お世辞でも綺麗とは言えない床をのた打ち回る。僕と年も殆ど変わらない彼と目が合った気がした。
そんな目で見たって無駄さ、もうダメだよ。
キミは助からないんだよ
それをまるで塵かのように見ていた大人は溜め息をつく。資料を一枚破り捨てこう言った。
「失敗だ」
大人達は実験器具を片付け、また新たな器具を追加した。
病院のような手術台のまわりでは、地獄の炎が揺らめき幼い僕達を引きずり込もうとしている。
そんな錯覚に陥るほど追い詰められていた。
「成功した」それは数々の実験で大人は一度も口にしていない言葉。どうせそんなの聞けやしないんだ。
ステージという台に立てば必ず失敗。
つまり死んでしまう。
かろうじて生きていても、衰弱しきった体は次の実験で魂を引き裂かれる。
残るのはボロボロになった肉の塊だけなんだ。
希望などなかった。
希望なんて持つのも悲しかった。
「さあ、来るんだ」
次は誰が死ぬの?そう思った途端僕は強く腕を引っ張られた。
次は僕が死ぬの?
服の裾を握った弟の手を静かに払う。雪兎はこの世の終わりかのような顔をした。何かを言おうとした弟に大人が睨みをきかせる。
助けて。
だが口には出せなかった。助けを求めても無駄でさっきの奴みたいに死ぬんだ。
周りの子供たちは震えて動かない。動けないんだ。でもたったひとりだけ、金髪の少年が手を伸ばそうとしてくれた。
嬉しかった。
でもやっぱり手は届かなかった。そして僕はステージへと立つ。
手を拘束された。
足を拘束された。
無理やり左目をあけ閉じられないように固定された。近づいてくる人の手と束になった色とりどりのチューブ。
焼ける。体が焼ける。
『あ"ぁ"あ"ぁ"ああ"ぁぁ"ああ"ああ…!』
痛みを受けているのは左目だけなのに。足の指先から頭のてっぺんまで激痛がはしった。
僕が何をしたっていうの?
悪いことなんてしてないよ?
いつもいつも勉強して。ほら、外国の言葉だって覚えたのに。
ファミリーを慕ってファミリーの為に頑張るっていつも言ってたでしょ?
まだ子供だけど、誰にも負けない。
誰よりも強くなってファミリーに尽くして。
僕はいつもいい子にしてたよ。
逆らわないしファミリーをバカにする奴は…
これからもいい子でいるから
ずっといい子でいるから
だからもうやめてよ
やめてよ、義父さん
「失敗だ、出来損ないが」
白衣に身を包んだ男はそう吐き捨てた。
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