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また今日から普通の生活が始まった。
普通と言っても暇な時間を弄ぶ日々の始まり。
一度イタリアに帰り暇潰しも良さそうだ。綱吉の命を狙うボンゴレ候補もいない。
そういえば雲雀に呼ばれていたんだ、応接室に向かわなければ。
暇だ。暇だけど何だか楽しい。
なんだか最近自然に笑えるようになってきた気がする。
それでもまだ心から笑うにはほど遠い。
もっと自然に、もっと普通に笑ってみたい。 みんなの近くで笑っていたい。
いつになったら出来るのだろう?
応接室のドアをノックせずに入室するとソファーに身を沈めている雲雀の姿が見えた。
『ちわーっス雲雀』
声をかけたが何かの資料を読んでいるのか気づいてもらえない。なんて今日に限って仕事熱心な人なのだろうか。
いつも仕事なんかしないで寝てるくせに。
無視されてると悲しくなるね、もう一度声をかけてみる。
『こんにちはー』
「……」
『こんにちはー。はろー。にーはお。あにょはせよー。…チャオ!』
「……」
『イヤン、雲雀ちゃんたら何語ならお話になられるのかしら?』
「……」
『…何か吐き気がしてきた』
「自滅かい?そのまま死になよ」
床に膝をつくと同時に顔面目掛けトンファーが飛んできた。
慌ててそれをキャッチすると舌打ちが聞こえた。受け止めた手のひらがヒリヒリする。
どうやら本当に無視されてたらしい。
『なにそれ性格悪っ!』
「君ほどじゃないよ」
即答された。だがボクは雲雀に言われるほどではないと思う。
『で、ご用件は?てか休日ってのに呼び出しといてお茶も出さないわけ?そんなんじゃモテないから』
「君に出すものなんてないよ。…それより、そろそろ教えて欲しいと思ってね」
雲雀は持っていた資料をテーブルの上に置くと同時に立ち上がる。
『何を?』
「君達のすべてを」
『……』
「へぇ…君もそんな顔するんだ?」
ボクは今どんな顔をしている?
握った拳が震え出し、何とも言えない衝動に狩られた。どうしても言わなくてはならないのだと決意とともに口を開く。
『変態かあんた』
「……」
『……』
「……何だって?」
若干目つきが変わった気がした。もう一度聞きたいのかと顔をしかめつつ
『変態ですか』
「……」
『……』
「ワオ!聞き取れなかったよ」
『だから変「じゃあ質問するから答えてよね」』
無理やり話を進め出した雲雀の目は今にも人を殺しそうだった。
しょうがないと思う。君達のすべてだなんて言われたら変態にしか思えない。
「本当は優羽に聞くつもりだったけど連絡もとれない」
『だからボクってか?だけど残念だな。改めて話すことはないんだけど』
優羽は勿論ここにはいないしボクだって優羽から何かしらのコンタクトがないと連絡もとれない。
だからと言って個人的な情報を他人に教えることなどもってのほか。
だいたいそんなもの知ってどうするんだよ。
「君達は人体実験で六道骸のような体にされた。本当にそれだけかい?」
青色のファイルから取り出した一枚の紙切れ。自分自身の顔写真と性別などの簡単なプロフィールが印刷されていた。
『どーゆー意味だよ、それは』
六道輪廻によるスキルのことか、それともこいつは六道輪廻にはないボクらだけのスキルに気がついているのか。
下手に喋らない方がよさそうだ。
資料に目を通していくと年齢や誕生日などは不明と書かれていた。でっち上げの履歴はすべて赤ペンで訂正されている。
一人暮らしと書かれていた欄にはふたり暮らし、住所等も正しく訂正されていた。勿論親は不在だ。
不在ではなくてもういないのだけれど。
『独自で調べたってか?』
「まあね」
下の方までぎっしりボクについてのことがかかれている、と言っても日本に来てからのことばかり。
誰にも言っていないはずのイタリアへ飛んだ跡、マフィアとしての仕事の形跡も簡単にかかれている。
ここまでくれば立派なストーカーだな。
『ま、流石に仕事の中身はわからなかったみたいだな、いやー残念残念。で、本命の優羽の資料もあんの?』
「うるさい」
『さすが優羽だ』
「それに引き換え君はボロボロだね。本当に君有名なの?」
『裏ではわりと有名のつもり。それより初めてボロボロって言われた、なにこれ辛い』
兄の資料はないらしい。兄のことを知られなければいい、と言ってもボクも優羽の動きは大まかなことしかわからない。
『改めてまして挨拶しまーす。marionetteって言うんだけど調べてくれてある?』
「そこまでは興味ないよ、ボクが聞きたいのは優羽のこと。日本に何しにきたのかだよ」
『あっそ。でもそれも残念。名目でなら暇潰し…のはずなんだけど本当の理由はわからない、寧ろ教えて欲しいくらいだよ』
欠伸をしたら視界が霞んだ。パタパタの雲雀の肩にいた黄色い小鳥がボクの頭へと止まる。
「ユキト ユキト!」
『…この鳥どうした、くれるの?』
「ダメに決まってるでしょ」
『ケチ』
何故だろうか。この鳥見覚えがある気がする。だが思い出そうとすると頭が痛くなるので考えるのをやめた。
するとタイミングがいいのか悪いのか、ポケットの中のケータイが震え室内に着信音が鳴り響く。
『おっと、リボーンからだ。失礼するよー』
逃げるように応接室を出たボクはリボーンと会話したあと山本の家へと向かった。
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