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「優羽さん」
夜中。現在地B6F、男子寝室前。僕を呼ぶ声に足を止め振り返ると草壁がいた。この時間は雲雀のアジトにいるものだと思っていたため少しだけ驚いた。
『どうしたんだい哲?』
「優羽さんの部屋でしたら雲雀が手配しました、こちらへ」
『ふーん、でもそっちは和室だよね。悪いけど断るよ』
「!、しかし…」
『不都合でも?』
「いや…その…」
気まずそうな顔をした草壁にはどこか焦りも感じ取れた。
「行ってやれ優羽」
『何故だい?…あぁ、そういうこと』
コスプレかな?昔の雲雀のように学ランを着てトンファーを構えているリボーンを見て納得した。
どうやら僕が行かないと草壁の身が危ないようだ。
小さめのサイズのトンファーがあまり明るいとは言えない蛍光灯に照らされ鈍く光った。
『じゃあ案内して』
「はい、こちらです」
リボーンと別れたあと草壁のあとをついていく。
一体何のためにリボーンはわざわざ僕を誘導させたのか、気がかりだ。特に利益もないだろうに何故。
まぁ深い意味はないかと思い、雲雀のコスプレをしたかっただけと結論づけた。
『ところで、昨日から綱吉の姿をみてないんだけど何処にいるのかしらないかな』
「沢田さんですか…?」
彼と話をしようかと部屋を何回か訪れたが運悪く会えなかった。山本に居場所を聞き足を運んだが姿は見つけられずすれ違いになる。
まるで避けられているのかとすら思ってしまう程。
『何かあったのかい?』
「…いえ…私もわかりません」
少し間をあけ考えた素振りをする草壁の顔は曇り始める。
それを僕が見逃すはずもなく、彼には心当たりがあるのだと裏付けた。
僕に嘘つくなんていい度胸だ。どう吐かせようかな。
『ねえ哲、き…、』
通路を右に曲がった瞬間僕の体に人がぶつかった。僕はとっさにその人物を確保する。
予定変更、予定外の獲物がかかった。
「…あ…!?」
『綱吉、捕まえた』
小さく息を漏らした彼は大きな瞳をよりいっそう大きく見開く。驚き過ぎだよ君。
腰に手を回し固定すると逃げられないとわかったのか綱吉は抵抗せず俯く。
『夜眠れなかったんだね』
「…え…なんで…」
『隈が出来てる。後で鏡みてごらん』
また目を見開いた綱吉は小さく頷いた。
隣にいた草壁は気を使ったのか「少し先で待っています」と言い残し歩いていった。
人を待たせるのは余り好きではないが今は綱吉が優先。
『ねぇ、何か僕に言いたいことない?』
「……ない、です」
まるで怒られた子供のよう。身体から彼を離しそっと頭を撫でてみる。
何を悲しんでいるのかと思っていた僕は、ゆっくり顔を上げた綱吉に内心絶句する事となった。
昔の僕をみているようだった。
ガラス玉のような目
引きつった頬
君はそんな目をする子じゃなかったのに。
「優羽さん…雪兎君どこにいるんですか?」
『雪兎にあいたいかい?』
「あいたいです、あいたいに決まってるじゃないですか…何処にいるんですか…!?教えて下さい…!」
………
「何で教えてくれないんですか!?優羽さんなら知ってるんでしょ!?」
「答えて下さい、何か…何か言って下さい!」
叫ぶように言葉をぶつけた綱吉は、何も答えずただ笑みを浮かべ黙り続ける僕に痺れを切らし走り出した。
小さくなる背中を消えるまでただ笑っていた。
そしてふと思い出したように、立ち止まっていた僕は草壁の元へと歩き出した。
『またしたね』
暫く歩いていくと壁に寄りかかっていた草壁を見つけた。
「優羽さん…あの…」
わかってる。綱吉の叫び声が聞こえてたんだろう?何も聞かなくていい。草壁が気にするようなものではなないのだから。
『行こうか』
「しかし…宜しいのですか…?」
『行くよ哲』
「…はい」
少し強めに言えば草壁は何も言わなくなり沈黙が続く。歩き続け雲雀のアジトの通路までやって来た。
雲雀の趣味だとしか言いようのない和の世界が通路の奥に広がっているのだと思うと何だか気疲れする。
『ひとついいかな』
「はい」
『今晩は綱吉に必ず食事をとらせてね。でないと倒れるよ』
そう言ってあはっと笑ってみると草壁は何処か安心したような顔をした。
「わかりました」
あの様子だと昨日もろくに食べてなさそうだ。
部屋の前につくと「では」と草壁は歩いていった。
姿が消えたのを確認し襖を開け部屋に入る。
畳の部屋は下を見れば緑一色。なんだか芝生の上にいるみたいな感覚。無駄に広いこの部屋は何だか虚しい。
「遅い」
『急ぐ必要性を感じなくてね。僕の部屋は何処かな』
「君はここで僕と寝るんだ。それこそ用意する必要はないよ」
『それは残念だ。帰る』
「…ちゃんと用意してあるよ」
『当たり前だよ』
座布団に座っていた雲雀が急に僕の前へずかずかと歩いてきた。和服はやはり彼に似合う。
だが彼とほとんど変わらない自分自身の身長に思わず溜め息をついた。
「何で溜め息ついたの、僕に惚れ直したかい?」
『都合のいい頭だね。羨ましいよ』
雲雀は冗談だよと小さく微笑んだ。でも何処か寂しげだった。
「ところで、パイナップルは何してるの」
雲雀の手が僕の頬を撫でる。あいたもう片方は僕の腰にのびてきたから払ってやった。
『パイナップルなら敵を探りに行ったまま帰ってきてないよ』
「実はもう死んでるんじゃないの」
『君が思う以上にしぶといよ彼』
また腰に伸びてきた手を払いのけた僕は欠伸をした。
『眠い。早く部屋に案内して』
「わかった、こっち」
雲雀についていくと先ほどより小さい部屋へとついた。
既に布団がひいてあり小さなテーブルと座布団が2枚程用意されていた。
「おやすみ優羽」
そう言い残した雲雀は来た道を辿るように歩いて行く。
返事をする事なく、部屋に入った僕は繕っていた笑みを消した。
『…Accidenti!』
なんてことだ!
抑えられない衝動に僕は壁を拳で殴りつけていた。
知っていた。綱吉は雪兎がいないことを知っていた。
まだ話さないつもりだったのに。
誰が話した‥!?
確かにいずれはバレてしまうかもしれない。
でも今話すべきことでは…
『Fanculo…!』
くそったれ!
僕は眠りにつくのも忘れ噛み合わない世界の歯車に悪態し続けた。