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【優羽side】
エレベーターの扉が開き僕の目に入ってきたのは静まり返った空間だった。
ここで雲雀と綱吉が新しい修業をしていると聞き足を運んだ。ほぼ強制的にだが。
「遅いよ」
僕の姿をいち早く見つけた雲雀は不機嫌そうに目を細めた。
靴音がコツコツと響きその場にいたラルと草壁、そしてランボを抱えたフゥ太がこちらを向く。
『綱吉はその中だね』
雲雀の匣兵器のハリネズミによる球針態が内側から攻撃を受け揺れている。
「彼、早く脱出しないと死ぬよ」
楽しんでいる。どうやら雲雀は本気で綱吉を亡きものにしようとしている。
『そうだね。でもその時はその時だ』
「それだけかい?」
『弱者が土に返るのは当然のことでしょ』
「本当に君は僕のことわかってる」
別に君をわかってるつもりはない。強者は弱者を好きなように出来る、行かすも殺すも強者次第。それは本当のことだ。
しかし球針態からの脱出は今の綱吉の力では無理だ。
例え弱者とは言い切れない彼でも、絶対的遮断力を持ち雲の炎を混合した密閉球体を破壊することは不可能に近い。
僕ですら力でアレを破壊することは出来ない。
もっとも、雪兎なら力で破壊するかもしれないけれど。
『よく引き受けたね、気まぐれ?』
歴代ボスが越えてきたボンゴレの試練に手を貸している雲雀。ただの気まぐれではなさそうだ。
「この後は好きにしていいって赤ん坊が言ったからね」
『ふーん、そう』
戦いたいだけか。雲雀らしい。
しかし試練には混じり気のない殺気が必要、そう思うと雲雀が適任。
だが本当に…試練などが存在するのだろうか。ボンゴレは謎だらけだ。
『ラル、君は結局どうしたいの?彼を強くしたいの、したくないの』
「見込みはない。言ったはずだ」
腕組みをしながら球針態を見つめるラルは迷うことなく言い放った。本当に本心かはわからないけど。
「何がおかしい」
いつの間にか緩んだ頬。指摘されたので更に笑みを深める。
『いえ、横顔が美しいなと』
「なっ!!?ふざけたことをいうなっ!」
顔を真っ赤にさせ怒鳴る彼女をからかうように笑う。
「…どうして君は僕の目の前で口説くの、いい加減にしないと咬み殺すよ」
雲雀は溜め息混じりで僕を睨む。口説いたつもりはないのだけれど、そう見えたのならそれでいい。
『次からは君のいないところで口説こうか』
ラルは盛大な溜め息をこぼし、それを聞いていた草壁は頭を抱える。
いつのまにか目の前にきていた雲雀は目を見開いて僕の肩を掴んだ。
「浮気は許さない」
『浮ついた気などないけど。冗談を真に受けるなんて君は子供だね』
「…君はもっと子供だよ」
『そうかもね』
最近の僕は人を困らせることが楽しいみたいだ。これは間違いなく雲雀のせいだよ。
だいたい僕は君に浮気と言われる筋合いはない。話がややこしくなるからあえて否定しないだけだ。
「やめろぉぉ!!」
刹那、球針態からの叫び声がその場の空気を揺らした。
刃物を突きつけられ今にも殺される。そんな恐怖に侵されたそれは勿論綱吉のものでしかない。
「酸素量は限界です。精神的にも肉体的にも危険な状態だ…」
「ツナ兄…」
草壁が腕時計で時間を確認しながら呟きフゥ太は不安気に名を呼んだ。それを聞き焦ったラルは腕を振り上げる。
「これでは無駄死に以外の何物でもない!ただちに修業を中止すべきだ」
そう言われると確かにその通りなのかもしれない。死んでしまえば意味はない…とはいえここでやめては試練の意味がない。
どうあれ、僕は助けるつもりは一切ない。
「君だろ?手にリングをつけて戦うよう沢田綱吉に指示したのは」
「!」
「それは正しい。そして君の求める沢田綱吉になれるかどうか。彼は極限状態の中器を試されているんだ」
『遅かれ早かれ試練を受けないといけない。だったら早い方がいいじゃない』
「おまえまで…」
「最もこの若さでこの試練を受けた歴代ボンゴレはいないそうだが」
「!」
雲雀が興味なさ気に淡々と告げる。ラルはこのことを知らされていなかったようだ。
『君も酷いアルコバレーノだね』
球針態を見つめる人間が増えていた。
見慣れた黒いスーツのリボーンが真剣な眼差しで行く末を見守っている。その姿にラルは唇を噛んだ。
「(こんなことをして何になる!おまえ達は沢田の人格を変えてしまうつもりなのか?)」
『かもね。でも僕はついでにもっと酷いことをしようと思ってるよ』
「読むな!…?。まさかおまえ、やめろっ!!」
僕はふふっと笑って球針態へと近づく。リボーンも雲雀も何も言わない。
彼らも今がタイミングだと思っているのかもしれない。
みんな酷い人間だ。でも一番酷いのは僕。
『綱吉。聞こえてるよね僕の声』
「…っ!?」
『教えてあげる。雪兎はね、死んだよ。だから帰ってこない』
「やめろ!今は言うべきじゃない!」
死んだなんて言いたくなかった。でも伝えないといけない。そして今を選んだのは僕は弱いから。
「う、嘘だっ…ちがう、ちがう…!」
上擦った声が僕の耳に届く。そうだよ、僕は嘘つきだよ。でもこんなコト嘘つけない。
『嘘ついて何になる?…亡骸がないから信じられない、まあそれもありかもね』
「…何、言ってんだよ」
『いいね。君の亡骸は帰ってきたのに僕の弟の亡骸は帰ってこなかった』
「…意味、わかんねーよ!」
『わかるでしょ?そのまんまだよ』
ムキになって綱吉を責めてる自分がいる。
そんな自分に驚いて言葉を探すが、子供のような言い訳は止まることを知らない。僕の薄い唇から零れていくのだ。
『君が殺された現場に雪兎もいたんだよ。君を庇って撃たれ、そして結局君も撃たれた』
「そ…そんなことって…」
彼はどんな顔をしているのだろうか。
弱々しく震える声から動揺が隠せていないのだけはわかる。
『残念なことに雪兎の体は回収出来なかったよ。君は誰のせいで雪兎がこの世界から消えたと思う?』
静寂の中、球針態の中から嗚咽が聞こえてきた。
苦しいよね。でも聞いて。
「オ…オレ、が…」
『僕だよ』
「…えっ…?」
彼の間の抜けた声に思わず力なく笑ってしまった。綱吉はきっと今自分のせいだと思ったのかも知れない。
酷いけどそうだったらいいと思った、君を責めて醜いこの僕の感情を満足させ終わらせたかった。