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『相手が僕を要求したんだ。正しく言えば雪の匣を開ける者、だけどね』

僕の所持する雪の匣は大空の波動をもつ者でも開くことは出来ない。
雪のリングと同じように匣も特殊だった。

「だったら、雪兎君だって…」

確かに雪兎も雪の守護者であり雪の匣を扱うことが出来る。だが

『仮にも人質になる、敵に捕まるぐらいなら雪兎は…自害するよ』

「!?」

『雪兎は助けを望まない』

「そ、んな…」

雪兎は綱吉たちに迷惑をかけるぐらいなら、そして何より屈辱的な思いを味わうことになるぐらいならと命を断つだろう。

『だから僕だ。僕はその選択だけは選ぶことがないから』

「……」

話すことに夢中になっていて気づかなかったが手があたたかい。
横をみると雲雀が僕の左手を握り此方を見つめている。
何だか振り払うことが出来ずそのままにする事にし、もう一度球針態に話しかけた。

『君はその要求を拒否したよ、君は優しいから』

もっとも、例えその要求を受け話し合いを続けようとしたとしても彼らは綱吉の命を狙っただろう。
ただ雪兎が綱吉を庇ったのはどちらにしても誤算だったようだが。

『…長い余談だったね。話は終わりだよ』

「優羽さんっ、まだ聞きたいことが、…うあああ!やめろっ!!やめてくれ!」

僕は雲雀に手を引かれ球針態から距離をとる。
その間も綱吉の叫び声が止まることはない。

『もう放してくれていいよ』

掴まれた手を揺らし放すよう促すが雲雀は首を横にふる。逆に放さないとより強く握られた。

「優羽…今酷い顔してるよ、笑ってるのに泣きそう」

『それは酷いね』

「泣くかい?」

『さぁね、君は僕に泣いてほしいのかい?』

「それで優羽が僕に頼ってくれるならね」

それは…難しいな。
そう答える前に綱吉の叫びを聞き僕は眉を顰めた。
何故なら彼が言ったのは

"こんな力ならオレはいらない"

否定だった。力を手に入れるにはそれなりの代価が必要になる。
ボンゴレの地塗られた歴史を受け入れないといけない。
死は目前。しかしこの状況で彼は否定した。

「こんな間違いを引き継がせるなら…オレが…オレがボンゴレをぶっ壊してやる!!!」

球針態に亀裂が入り光が漏れる。一体中で何が起きたのか。

「恭さんこれは!?」

「球針態が…壊れる」

爆風とともに閃光が走り、球針態は爆発して粉々になってしまった。煙が立ち込める中、黒い陰があらわれる。

オレンジ色の澄んだ炎を灯し、手には真新しいグローブ。
この時代の綱吉は指に装着したリングを手の甲に宿し力を引き出した。まさに今目の前でそれが起きた。

半信半疑だった試練、しかし流石にこれには驚かされる。

「まさか試練の末の形態だとはな…」

ラルも驚きを隠せないようだ。しかしその隣でリボーンはニッと笑っていた。

「オレも半分自信なかったけどな。飛躍的なパワーアップと言われてこの伝説の試練しか思いつかなかったのが正直なところだ」

『へぇ…伝説を試すなんてなかなか面白いことしてくれるね』

「言ったろ、これしか思いつかなかったと。だがあんな答えで試練を乗り越えたのは歴代ボンゴレでツナだけだろうがな」

綱吉は暫く右手にはめたリングとグローブを見つめていた。
グローブをより澄んだ純度の高い炎が包み込む。

「ワオ」

隣にいる雲雀はそう呟き興味の視線を綱吉に送る。

「少しだけ僕の知ってる君に似てきたかな」

「!」

「赤ん坊と優羽と同じで僕をワクワクさせる君にね」

雲雀はやっと僕の手を放し匣を用意する。薄く笑う彼からは企みを感じとれる。

「ここから先は好きにしていいんだろ?赤ん坊」

「ああ…そういう約束だからな」

深く帽子をかぶったリボーンの表情はわからない。約束を確認した雲雀は匣からトンファーを取り出し構え殺気を放つ。

ピリピリと肌を刺すような殺気は10年の月日と強さを物語る。

「この戦いにルールはない。君が選べるのは僕に勝つか…死ぬかだけだ」

「勝つさ」

だが綱吉は真っ直ぐ雲雀を見つめ気圧されることなく即答した。挑戦的な答えに満足したのか雲雀は笑う。

「来なよ」

僕の周りの人間は何かと血の気が多い。だがそれは何ともおかしくて楽しくて面白いことだ。
さらに傍観することが僕の一種の娯楽になりつつある。

でもそろそろお暇しようか。

殺気と炎をぶつけ合うふたりに背を向け歩き出すがリボーンが目の前に立ちふさがった。

「どうせなら最後まで見て行け」

『最後まで見なくても‥』

雲雀の勝ちでしょ?

そう言い終わる前に大きな爆発音、さらに背に爆発を受け自動的に数歩前へ進む。
振り返れば煙の中で綱吉が呻きながら倒れていた。何かに耐えるように唇を噛み締める。

『何が起きたんだい?』

「何のマネだい?」

僕と雲雀がほぼ同時に声を出した。

「どうやらVer.V.R.(バージョンボンゴレリング)ってのは随分ピーキーな特性らしいな」

「ピーキー?」

皆がリボーンに視線を送り続きを催促すると小さく頷く。

「ツナの顔を見る限りあいつの思い通りの炎が出せてねえみてーだ」

「……確かに沢田の動きはぎこちないが…。それは炎のパワーに圧倒されているからではないのか?」

しかしパワーの問題ならばコントロールができる範囲内で戦えばいい。
それが出来ていないとすれば、やはりあのグローブが問題なのだろう。

「先代達がツナに授けた新兵器ってのはとんだじゃじゃ馬ってわけだな」

『いいものくれたじゃないか』

皮肉として言ってみたがリボーンはニッ笑う。
それは綱吉がこのグローブを使いこなすことが出来るという自信なのかは定かではない。

「おまえ達は何を嬉しそうに言っている!まだとても実戦で使える代物ではないということだぞ」

「ああ、距離感もタイミングもつかめねーだろーしな」

あくまでも実戦で使えなければ意味がない。
そしてあの戦い方と無駄に使われている炎では体力も限界に近いはずだ。

生き残るには雲雀の気が運良く変わるか、もしくは雲雀を倒し勝つか。
しかし後者に希望はない。…相手の裏をついたとしても勝機はみえはしない。

「ねぇ、君僕が言ったこと覚えてる?」

「……勝つしかないんだろ?」

何を血迷ったのか、それとも何かを狙ってなのか。高速での一発勝負に出たが

「ダメだっ、カウンターの餌食に!!」

あ。面白くなりそう。

真正面から突っ込まれれば返り討ちなど簡単だ。相手が小回りの利く接近戦が主な雲雀なら尚更。綱吉は勿論吹き飛ばされる。

「君にはガッカリだな。何で優羽と雪兎が君にこだわるのかわからない」

『そうか、でもよかったじゃないか。今それが分かるようになるよ』

「…」

此方をチラッとみた雲雀は呆れたように小さく溜め息をついた。

「直接手をくだす気にもならないよ。匣で…」

しかしポケットをあさった雲雀は初めて気がついた。綱吉が雲雀の匣を持っていたことに。

「頼む……」

綱吉は匣からハリネズミを出した。
速い攻撃だが雲雀は反射的にリングをはめ匣を開匣し同じくハリネズミをぶつける。

『君はやはり面白い』

頭上でハリネズミがお互いを傷つけあう中雲雀は笑った。

「気が変わったよ、もっと強い君と戦いたいな。それまで少し付き合おう」

綱吉は唖然と雲雀をみていたがその言葉を聞き悔しそうに眉をよせた。

 
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