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次の日、僕はボンゴレのアジトの図書室に足を運び本を読んでいた。

久しぶりに落ち着いた時間だ。

今頃綱吉はラル、山本はリボーン、そして獄寺はビアンキとそれぞれの修業をしているだろう。
それを見るのもいいが今日は何だか気分が乗らない。


「ねぇ、何読んでるの」

ふと顔をあげると雲雀が壁に背を預け立っていた。

『鏡の国のアリス』

「ワオ。カワイイね」

『そうだね、カワイイ話だ』

「…僕は君がカワイイって言ったんだけど」

『…真顔で変なコト言わないでよ』

手元にあった本にしおりを挟み一息ついた。

「僕とお茶しないかい?」

わざわざ誘いに来るぐらいだ。何か話があるんだろう。
僕はそれを受け、雲雀のアジトへと足を運んだ。

「優羽。君に渡したいものがある」

景色のいい和室に案内され、茶菓子を小さく切り分け口に運ぶ。とても甘かった。

雲雀から差し出されたのは黒い袋。その中には銀の装飾に縁取られた白い匣がいくつも入っていた。

『…これは』

「そうだよ、雪兎が所持していた雪の匣だ。もしもの時の為に哲が預かっていた」

『そう…』

匣を受け取りもう一口菓子を口に運ぶ。
雲雀はしばらく雲雀自身が所持していた雪の匣をみつめふと口を開いた。

「何で大空でさえも雪の匣を開くことが出来ないのかな」

『セカンドがあるじゃない』

「僕はセカンドじゃなくてファーストを開匣したい」

僕ら兄弟のように雪の波動が強くなければ雪の匣を扱うことは出来ない。
ただし雪の波動をもつ者は極めて少なく、その貴重さと珍しさから僕らは異端者と呼ばれる。

学者から言わせると何か特別な条件と環境が関係しているのだと。

そして強いとは言えないが雪の波動をもつ者が扱えるように改良した匣を第二の匣、通称セカンドと呼ぶ。

セカンドは雪の波動が弱くても開匣が出来るが、ファースト…つまり本物の雪の匣よりも能力は劣る。

『いいじゃない。セカンドを開匣できるだけでも有利だよ』

雲雀はどうやら僕と同じく異端者。ファーストではないがセカンドを開匣することができる。

「君のファーストが10ならセカンドは5から7。どう足掻いても互角にすらならないなんて…面白くない」

拗ねるような物言いに思わず笑うと、雲雀は僕の目の前に来て頬に手を伸ばし優しく撫でてきた。
それを払いのけようとしたが手首を掴まれ身動きを封じられる。

さらに重力に逆らうことなく身体が倒れ、雲雀に押し倒される形となった。

『くすぐったいんだけど』

首筋へと顔をうめてきた彼に文句を言うと

「ドキドキする?」

耳元で低く甘い声で囁かれどう反応していいか一瞬わからなくなった。
すり寄ってくる彼は猫のよう。

『心臓はいたって普通だよ』

「…優羽って甘い匂いがするね。食べたくなる」

『君からみたら僕は美味しそうなのかい?』

「とても美味しそうだよ。…甘噛みしたいな」

…何だか本気にされそうだ。
そろそろ逃げようかと身をよじるが雲雀は僕を抱きしめる。

「好きだよ優羽」




しばらくすると寝息が聞こえてきた。

どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか僕にはわからない。

でも君のぬくもりは何故か僕を安心させる。

君の言葉は僕を惑わし、僕の鼓動を早くさせる。

あぁ。君のせいだ。

この鳴り止まない心臓は自分の力じゃ止められない。


そして優しい雲雀君の香りと温度に静かに目を閉じた。

 
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