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雪兎は自宅でココアを飲んでいた。
マグカップに注がれた甘い香りと白い湯気。次第に心は酔いしれる。

いつもだったら隣には兄の優羽がいて、たわいのない会話やボンゴレの動き、そして仕事の話をして笑いあうはずだがそこには姿がない。

いつも以上に静かな部屋には時計の針が時を刻む音が響き、風で白いカーテンが揺れるだけの虚しい空間だった。
雪兎は自嘲気味に笑い蛍光色の紫色をした右目に黒いカラコンを入れ新しい学ランを着る。

『(つーか学ラン動きにくい…)』

正式に風紀委員補佐となったが仕事が増えるだけで嬉しくもなんともない。雑用よりはマシかと思えばマシなのかなと無理矢理納得した。

『…行ってくるよ優羽』

小さく部屋で呟いたがやはり返事は帰ってくるはずもない。

虚しくなった。

そして黒い学ランを揺らし雪兎は家を後にした。






「やぁ」

応接室につけば早速山積みとなった資料資料資料資料。
めまいで倒れそうなほどの厚さに雪兎は思わず後ずさりをするがドンと肩が後ろの何かに当たる。草壁により逃げ道は塞がれていた。

「雪兎さん仕事お願いします」

『しぶいよな草壁…あんた何歳さ?ホントに中学生にみえないね』

雪兎が年下にもかかわらず雲雀以外の風紀委員からはさん付けだ。風紀委員長のヒバリとタメ口のところ、そして優羽の弟と言うこともありかなりの権力を持っているらしい。
だが本人はよくわかっていなかったりもする。

『ズバリしぶさの秘訣は!』

「それは委員長の「いい加減仕事しないと咬み殺す」」

草壁は即座に謝り応接室を出て行く、どさくさにまぎれて逃げようとした雪兎の頭上にはトンファーが飛んできた。ちゃっかりよけたことに雲雀は顔をしかめる。

「…やっぱり当たらない」

『もう大人しく殺られるなんて嫌だから当たり前っス』

トンファーを拾った雪兎は雲雀に投げ返しもう二度と殴られてあげないからと怪しげに笑みを零す。不機嫌になる雲雀はデスクワークを中断し静かに立ち上がりトンファーを構え殺気立つ。

「僕は君の先輩だよ?」

『先輩とか関係あるわけ?ボク達の世界じゃ強い奴が上なんだよ』

いつの間にか雪兎は右足を後ろに引き構える。武器はもっていない。
余裕?雲雀はそれにムカついたようだ。

「別にどうでもいいよ…やっと君を咬み殺せる」

『ハイハーイ、寝言は寝てほざけー』

雪兎はいつも以上に楽しげだ。雲雀をからかい反応と殺気を嬉しそうに受け取る。だが雲雀は小さく溜め息をつきトンファーを下ろす。

「…やめた」

『はっ?』

「仕事しなよ」

『何だよ怖じ気づいたのか?』

「君変だよ」

『な、何がだよ…?』

雲雀はトンファーを机の上に置くと今度は深く溜め息をついて雪兎を哀れむような目で見た。
雪兎にはわけがわからなかった。
戦えると思ったのに急にやめてしまった雲雀、彼なら挑発すればいいとワザと言ってみたのに殺気もなくなってしまった。

「何をそんなに焦ってるの」

『焦…る?』

このボクが?

顔をしかめた雪兎はその場に立ち尽くす。

『焦ってなんか…!』

「じゃあ何で必死に挑発したの」

『別に必死なんかじゃ…!?』

「いつもより落ち着きないし何も考えてない雪兎は雪兎じゃないよ」

『……ボクは…』

雲雀の言葉に雪兎は俯く。そんなに焦ってたように見えたのかよ…。

自分自身に気づかないほどいつもの思考回路はまわらない。

『…帰る』

雪兎は応接室を後にした。


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