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「骸様と優羽様…」
『僕は様つけられるような奴じゃないけどね』
「クフフ、いいじゃないですか」
凪に様付けを何度も止めてくれるよう頼んだが結局首を縦にはふらなかった。正直こういうのは好きじゃない、と言うか主従関係はあまり好きではない。
「今思うと雪兎がいなくてよかったです」
『僕には君が必要ですってやつ?』
「クフフ…」
『心配しなくて大丈夫だよ雪兎鈍いから』
「…それはそれで心配になります」
「あの…雪兎って誰ですか?」
凪にはわからないようだ。凪は先ほどから僕の腕に抱きついている。妹が出来たようで少し嬉しかったりするが、もし雪兎がいたら間違いなく武器を片手に走ってくるだろう。
え?自意識過剰?
それがどうしたの?
「優羽なんか黒いです、てか誰にその笑みを向けてるんですか」
骸は呆れたように言う。
『雪兎は僕の弟だよ』
「優羽様の?」
「クフフ、そして僕の大事な人です。きっと凪も気に入りますよ」
『きっともうじき会えるから仲良くしてやってね』
凪に笑いかければまた凪は小さく笑ってくれる。小さな幸せに浸っていると骸が提案する。今までの凪はいなくなった。だから名前をつけよう…と。
「クフフ…何にしましょうか?」
『クローム』
「なぜです?」
『ムクロを並べかえてクローム』
「六道…ではクローム・髑髏ですかね」
ふたりしてネーミングセンスを多少疑うがクロームは頷いてくれた。
「優羽様と骸様は何をしてる方なのですか?」
『敬語じゃなくていいよクローム』
「…優羽様は何をしている人なの?」
『僕はマフィアだよ』
「クフフ…そして僕は六道輪廻を巡りスキルを持っています」
隠すことなどもうない、僕は過去や現在の状況、だいたいのことを話した。スキルのことも僕の弱い心も。多少は驚いたみたいだ、でもクロームは僕から離れようとせずよりいっそう抱きつく腕に力を入れている。
受け入れてくれた。
嬉しいはずなのに少し悲しくもなった。
雲雀君は、雲雀恭弥は今の僕を受け入れてくれるのだろうか…。
昔の僕を受け入れてくれたように、変わり過ぎてしまった僕を受け入れてくれるのか。
聞くのが怖くて不安を撒き散らし逃げて来た僕はただの我が儘なガキだ。謝りもせずに背を向けた。
僕は…
「優羽様…」
『どうしたの?』
「大丈夫」
大丈夫?
気がつけば心配そうに顔を覗くクローム。どうやら考えごとが顔に出てたらしい。でも大丈夫と言われて不安が少なからず減った気がした。
でもどうしても自信がなかった。
このことはクロームには話していない、もちろん骸にも。
『本当にそう思うかい?』
「優羽様なら大丈夫」
決して表情が豊かではないクロームは精一杯笑っていた。僕の心は次第にあたたかくなっていく。
妹っていいなぁ…
「クフフ…今何故か貴方にとてつもない親近感が『気のせいだよ』…クフフフ!」
僕は骸の違う意味での仲間にはならないよ。絶対に。
新たに心に誓った僕は一度精神世界から離れた。光も何もない暗いところ。冷たい水の感覚が戻ってきた。
そして僕はさらに意識を集中させる。
実験で手に入れた特殊な能力。スキルを使わなくとも幻覚が使える体質。
僕はイメージを重ねる。
ここから外へ意識をリンクさせるために…。
まっててね雪兎…
今、帰るから…
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