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『僕の弟にいったい君は何をしようとしていたのかな?』
「ごめんなさい」
現在俺たちの前で正座する金髪の男、約10年後のヘナチョコディーノ。言われてみれば確かに面影もあるしタオルすらまともに絞れないドジっぷりは見事にご本人だ。
そんなやつにファーストキスを奪われようとしていたのかと思うと自分が情けなすぎる。
そして俺はトラウマになりかけているその傷を少しでも癒そうと、仁王立ちする優羽を後ろから抱きしめている。
腰細いとかすごいいい匂いとか優羽大好きとか愛してるとか、ほんと役得だななんて思う。
でもやっぱり視界がぼやけてくるわけでまともに顔をあげることができない。別に涙じゃない、汗だ。これは汗なんだからな。
『謝れなんて言ってないよ?質問に答えろって言ってんだよ』
「…っ!!その出来心で抱きしめたら歯止めが利かなくなってな!その、雪兎が動揺してんのがあまりにも可愛くてキスしちゃおうかななんて…はは」
『ふざけてるとその首飛びますよ?』
「本当に申し訳ないと思っています。すみませんでした」
『困ったな…未来のあなたは予想以上に成長していないようだ。これじゃ未来の雲雀恭弥も期待できないね』
心なしか涙声のディーノに優羽はあきれたように笑った、と言うよりは最初から怒っているわけではなかったようだ。
それに気づいたディーノは一気に緊張をとき姿勢を崩すが、俺に至っては舞い上がっていたためちょっと残念である。
『しかもなんで雲雀の名前が?期待してたの!?』
『期待なんかしてないよ。でも彼君の上司でしょ?』
「確かにそうだな。現におまえは恭弥のやつに扱き使われてるぜ」
未来の珀槻雪兎の可哀想な真実をこんなとこで聞かされるなんて可哀想すぎるだろ。
楽しそうにでもどこか同情の眼差しを向けるディーノに若干殺意を覚え、精一杯睨むが効果はなし。
「そんな涙ぐんで睨まれてもな…」
『な、泣いてないんだからな!汗が目に入っただけなんだからな!悔しくなんてないんだからなバカー!』
『ツンデレか』
優羽の後ろから顔をのぞかせる小動物にディーノは気まずそうに頬をかく。ふたりの間に挟まれた優羽はしょうがないなと言ったようにディーノを手招きした。
『も、もとはと言えばおまえが…おまえが…?』
頭に置かれた手に驚き言葉を失くす。いつの間にかすぐそばにいたディーノがやさしい笑みを浮かべていた。
「ごめんな。護ってやれなくて」
そのあたたかさは今の俺に向けられているのか、それとも未来の俺に向けられているのか定かではない。
だけど確かに俺がこいつに心配させ、こいつを悲しませ後悔させているんだと悟った。
『…なんで?あんなに冷たくしてたのにどうしてそんなこと言えんの。嫌われて当たり前だと思っていたのになんで?』
するとディーノはすこし照れながらも真っ直ぐ俺をみた。
「大事なやつを嫌いになれるわけないだろ」
『わああああああああああああっ!!』
「ひぃぃぃぃぃぃ?!!」
がばっと勢いよく俺は上半身を起こした。
呼吸が上手くできず上下に肩が揺れると同時に全身から汗が噴き出しシャツをべったりと濡らす。
咳込むと追い討ちのように過呼吸まがいで息を求める身体に余計苦しくなった。
だがしばらくすると落ち着いたのかゆっくりと酸素は身体の中へと吸い込まれていく。そしてあたりを見回した俺はホッと息をついた。
『なんだ、夢か』
「な、な、な…っ」
『あれ、綱吉おはよー』
よっと片手を上げ床にへたり込んでいる知った顔に挨拶するといきなり胸倉を掴まれた。
「おはよーじゃないだろ!いきなり叫ぶやつがどこにいんだよ心臓止まるかと思ったよ!?」
『落ち着いてください瞳孔開いてますよ』
「落ち着いてられるかぁぁぁぁ!!」
『ちょっ首締まる!締まってるから止めてー!』
あれから数十分後、やっと綱吉も落ち着いたようでお話が通じるようになりました。鬼のような形相で首を絞められるから本当に死ぬかと思った。人間の瞳孔があんなに開くとは思わなったのでちょっと物知りになった気分だ。
俺はそんなどうでもいいことを考えながら綱吉を見上げ静かに現実逃避をしている。
「はぁ…本当に雪兎君ってバカだよね」
ベッドの上に座り足を組む綱吉は憐みとなんらかの同情の視線を向けてきた。もちろん硬くて冷たい床で正座させられている俺には見下されているという認識もプラスされる。
なんというか、今あの綱吉が女王というか、そう!僕様な雲雀恭弥にしかみえない。
これはなんという地獄なのだろう。雲雀化地獄?
「聞いてるの?」
『ひはいひはい聞いてまふっ!』
頬をつねられ、あれ?最近なんかこんなんばっかりな気が…。
なんだか気づきたくなかったことに気づいてしまい涙がでそうになった。
すると綱吉がなぜか困ったように笑いやさしく俺の頬を撫でた。
「…寝込んでるって聞いたから心配してたのに…心配して損した」
そう言われ壁に掛けてあった時計を見て少し驚いた。起床時間などとうに過ぎている。
『…頭痛い』
今頃になって襲いかかる頭痛に頭を抱えると目の前に差し出せれた物が目に入った。それは見覚えのあるもので、しかしとてつもない違和感を感じた。
『それは…』
「ハルが持ってきてくれたんだから早く飲んで元気になってよ」
『あの、それって薬ですよね…?』
怪訝な顔をした綱吉はそうだけど…と呟く。
『あ、あれ?夢じゃ…?』
え?
その後、放心状態の俺は無理やり薬を飲まされ引きずられるように部屋を後にした。
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