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深い深い眠りにつく、そんな気分だった。

全身から力が抜けていき休まったように心が穏やかになる。
なんて居心地が良いのだろう。

でもここは現実なんかじゃない。心の休まる場所など世界のどこにも存在しないのだ。

新しい家・学校・牢屋・アジト
そして歪んだ未来

今まで様々な場所を訪れた。どこも面白味の欠けたモノで溢れ息が詰まる。
この国で何かが見つかるかもしれない、そう思っていたあの頃の僕は消えてしまった。

始まりはあの人に出会ったことから。
ならば終わりもここなのかもしれない。
しかし、そもそも僕の何が始まっているのだろうか?
…その答えを知るのはまだまだ先のような気がした。





「どうデスカ、ココは」

何処からともなく現れた影をたどる。すると黒い瞳と視線が合わさった。風もないのにゆらゆらと揺れる黒いマントに身を包んだ男は両手を広げた。

『君は誰』

「申し遅れマシタ、私は××と申シマス」

『…聞き取れなかった。もう一度言ってくれるかい?』

「それは困りマシタ。××と申シマス」

しかし彼の言葉はまるでノイズ。名前だけがどうしても聞き取ることが出来ない。
それよりも不可思議な事がひとつ。彼には目がある、確かに今視線が交わっているというのに…彼には顔がない。
口や鼻、耳といったパーツが見当たらず表情が全くと言ってもわからないのだ。

『君は何者かな…この場所を知っているような口振りだったけれど』

天は真っ暗な闇、回りも見渡す限り闇。血で汚れた地面に転がるのはボロボロのぬいぐるみと壊れたおもちゃ。所々にある大小様々な瓦礫に張り付く無数の蝋燭が唯一の光源だ。
そして人なのかすら怪しいこの男。

「コレは奴が作り出した幻覚ナノカ」

『!』

「はたまた自分がただ夢を見ているだけナノカ。でもソレは違いマス、ココはアナタの中なのデス」

『そう言われて信じるとでも?僕をここから出しなよ』

「ソレは出来マセン。ワタシ逹の為に死んでクダサイ」

次の瞬間男はゆらっと揺れ姿を消した。今のは一体何だったのか。男が言った私達とは何なのか。
そもそもリングをはめてから記憶がない。これはリングが関係している、それは間違い無さそうだ。
だってそうだろう、でなきゃこんなところに昔殺したマフィアがいるわけないんだから。

武器を片手に走り出す男逹の攻撃を避けながらひとりひとり確実に殺していく。
幻覚で出した槍で首を跳ね心臓を刺し、時には蹴りで骨を砕き動けなくする。
だが何故だ、殺したはずなのに何故死なない?

『どういう仕組みかな…』

痛覚も聴覚もないのだろうか?悲鳴ひとつあげない男逹は失った体のパーツを瞬時に再生させながら武器を手に取る。
これが幻覚ならば相手をしていても無駄だ、これを操る親を見つけなければならない。

『…そこか』

敵を蹴散らし槍である男を斬りつける。しかし避けられてしまった…いや、わざと外したのだ。
外さなければならなかった。見覚えのある背格好、そしてあの笑みは他の誰でもない。

「クフフ…見つかってしまいましたか」

骸、何故君がここにいる?
驚く僕に彼は唇の先をつり上げた。

『幻覚…ではなさそうだね』

「ええもちろん。僕は間違いなく六道骸ですよ」

先ほどの攻撃が当たってしまっていたのか頬から赤い滴がゆっくり顎を伝い服を汚していく。しかしそれを気にすることなく骸は何時もの笑みを浮かべていた。

『ここはどこだい?』

「貴方の中ですよ、さっきそう言われていたじゃないですか」

『本気かい?君まで信じているなんて驚愕したよ。でも…これはどういう事かな骸』

骸を中心に男逹が僕を囲む。ジリジリと近づき攻撃の合図を待っているのだ。遊びにしては質が悪い。

「僕は優羽を仲間だと言った。しかし君は僕を仲間だとそう思っていますか?」

『裏切るな、そう言ったのは君だ。今更何を疑う』

「クフフ…そうですね。でも僕は君を倒さなければならないようだ」

『!』

男逹が襲いかかる中、骸は静かに笑っていた。

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