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殺しても殺しても所詮は幻覚。減ることのない敵を真面目に相手しても無駄だ。骸を叩こうにも男逹が壁となりたどり着けない。

「おや、逃げるのですか?」

嘲笑う声が聞こえたがそんなものは無視だ。ここからの脱出方法を考えなければならない。
背を向ける僕は彼にどう見えたのだろう。情けない、君にはガッカリだと冷たくそう吐き捨てるに決まっている。でもそれは違った。

「ほら、早くお逃げなさい」

骸が見えなくなった頃には男逹の姿もなくなった。それに伴い景色が変わる。天は青空が広がり地には緑が広がる。これも幻覚なのだろうか、だが目の前に立っていたのは術師ではない。

『綱吉…』

瞬時に距離を詰められ殴られる。右手でガードしたもののそれでもダメージをくらった。油断していたのだ、彼が攻撃してくるはずがないと。
正直この右手は使い物にならなそうだ。彼が例え本物であろうとこのままではやられてしまう。

『少し、寝ていてもらうよ』

気絶させるつもりで相手の急所を狙う。タイミングは完璧のはずだった。彼の癖と行動パターンから隙を割り出すのは簡単だ。なのにどうして。

『…っ』

どうして体が動かないんだ。彼の拳が腹にのめり込むと体は解放されたように動き後方に吹き飛んでいく。着地とともに脇腹が軋む音がした。

『何でこんなことを君が…』

ゆらゆら揺れる綺麗な炎と意思の強い真っ直ぐな視線。どう見ても幻覚には思えない、僕の知る沢田綱吉そのものだ。

「ソレはアナタがよく知っているはずじゃないデスカ?」

『…いつからいた』

「ずっとココにイマシタ。アナタに姿が見えなかっただけのことデス」

何処からともなく姿を現した男は淡々と告げ綱吉だったものの隣に立っていた。灰のようにさらさらと崩れたそれを彼が手ですくい握り潰すと瞬く間に消えてく。

『今のは』

「幻覚ではアリマセン。正真正銘本物デス」

『そんなわけないだろう。本物と言うなら何故今彼は消えた、君が隠したとでも言うのか』

「それは少し違いマス、ワタシが彼等に干渉することはアリマセン。よってワタシが彼等を消したのではなく、彼等がワタシから姿を消したのデス」

『…また逆に彼等が君に干渉することをしない、それは君と同じ空間に存在することが出来ない…でいいかな?』

「それはワカリマセン」

幻覚ではないのに消える彼等。どう考えたってこの男もあの綱吉も怪しいことこの上ない。
そもそも骸は復讐者に捕らえられ水牢の中にいる、クロームの気配すらないのにいられるはずがない。
そしてこの男はここを僕の中だと言ったのだ。
それを鵜呑みにするならば本物に限りなく近い彼等は僕自身が作り出しているまやかしだ。ではこの男は一体…?

「ゲームをシマショウ」

『僕を殺すゲームでもするつもりかい?』

「コレを使ってクダサイ」

目の前に何かが落ちた。反動で跳ねて動かなくなった足下のそれはハンドガンだ。

「敵を倒してクダサイ。それが全てデス。アナタが勝てばココから出られマス」

『ま、妥当だね。それで君が負けたら僕に何をしてくれるのかな』

見た目ほど重みを感じられない銃をゆっくりとした動作で拾う。
すると初めて男は首をかしげるという人間らしい仕草を見せた。

「オカシイデスネ。大抵は負けた時のコトを聞くはずなのデスガ」

『他にこのゲームをした人間がいるんだね?』

「アナタは既に会ってイマス。皆サンはワタシの一部ですカラ」

『!』

黒いマントが大きく揺れ体を隠すように広がると男は姿を消した。ほぼそれと同時に人影が現れる。
長い銀髪が風に流れた瞬間空を斬る音がした。

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