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六道骸の姿はここにはない。あの男がゆらりと立ち上がった。
『ゲームは終わった、君の負けだ』
「…ココから出したくナイ。しかしそうも出来ナイ。ココから出るには何かを置いていかないといけないのデス」
ゆらゆらと揺れるマント。相変わらずの何もない表情で告げる。
置いていかないとどうなる?どうせここから出られないと言うのだろう。
『何が欲しいのかな』
この男は嘘だけはつけない、そんな気がした。ゆっくりと男の腕が上がりその指先が僕のあるものを指す。
「ソレを」
『…いいよ。でも最後に教えてよ、どうして六道骸の姿を選んだのか。僕の弟とかでも良かったんじゃない?』
「六道骸の…が……た………」
『時間切れのようだね、残念だ』
そこで僕の視界から彼が消えた。
目が覚めると見慣れた天井ではなかった。体を起こすと頭から血が流れ頬を伝い落ちる。
包帯が巻かれた体はまるでミイラのような姿になっていて、傷が深いのかじわじわと赤が広がる。
治療道具を腕から抜きとり、手当てをしてくれたであろうその人の頭をそっと撫でる。まぶたの下に隈を作りすぐそばで寝転ぶ彼の姿は帰ってきたのだと僕を安心させる。
側に置く骸、そして側にいてくれる君。
『君はどうして側にいてくれるのかな』
守ってくれると言った君はあの頃の僕にとってヒーローのようなものだった。でも今はヒーローなんて安っぽいものでは片付けられそうもない。
君は僕の何?知りたくて知りたくてたまらないんだ。
『ねぇ…起きてよ。僕をひとりにする気?…雲雀く…』
視界が彼一色で埋まった。柔らかいものが僕の乾いた唇をふさぎ呼吸を忘れさせる。
たったの数秒間で考えていたことを全て忘れた。
「…君こそ、僕をひとりにする気なの?」
『……』
「そんな顔しないでよ優羽、大丈夫だから笑って」
『…怒ってるくせに笑ってなんて、君って変』
「優羽の声聞いたらどうでもよくなった。…おかえり」
なんでそんなに優しい顔をするのだろう。嬉しそうに僕を見ないでよ。
それにどうして君はキスしたの?どうして僕はキスされたの?
苦しい、どうしてこんなに苦しいの?
どうして僕は……泣いているの?
『…っ』
「おいで、そばにいるよ」
涙がこぼれる。それと同時に心の奥深くに隠していた何かが顔を覗かせる。出てこないで、お願いだからずっと忘れたままにしておいてよ。
変わるのが…恐い…
雲雀君の腕の中、震える体で彼にすがり付く僕は幸福と恐怖に怯えるしかなかった。
→補足及び後書き