ハルアベ・パロ部屋(皇子様と僕)
□皇子様と僕 帰還編
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窓の外から明るい光が差し込む。
窓の外から賑やかな声が聞こえる。
窓の外から紺碧の青空がみえる。
タカヤは薄暗い寝室のベッドの上で寝ている。
瞳だけ、窓に向けて。
丸まって横になり、シーツに頬を押し当てて、空を眺めている。
晴天で、雲ひとつない乾燥した青空の中を、太陽神ラーが移動していく。
タカヤはまぶしい太陽の光を想う。
日差しの下にでなくなって、もうどれだけ経つだろう?
チラリと自分の腕に視線を向ける。
ナイルのほとりに生まれた男らしく、褐色に輝いていた肌も、少し白んできた気がする。
タカヤはまた視線を窓に移した。
あの窓の外では、世界が今日も忙しくまわっている気がする。
城の兵隊、貴族、王族、召使い。城の外では農民、商人、職人たち。
この世のすべての者たちが、今日という日を、それぞれの持ち場でそれ相応の活動をしている。
オレだけが、世界から滑り落ちてしまった。
オレだけが、この世に居場所をもたない。
そんな気がしてくる。
アキマルさんが食事を運んでくれるまで、あとまだ何時間もあるだろう。
太陽は天空でその歩みを止めてしまった。
そして、動きもしないのに物足りなさを感じだした胃に、だされた食事を黙って詰め込む頃、窓の外は暗くなる。
長い長い一日が終わり、太陽がその力をついに弱め、西の空に沈んでいく。
天空の女神ヌトがその太陽の亡骸を飲み込み、そしてまた明日の朝、東の空から再び太陽を産み落とすだろう。
輝かしい太陽が消えたあと、オレの世界が動きだす。
ピクリと自分の腕を動かした。
静寂の中でうずくまると、自分の鼓動が大きく聞こえる。
それが、自分の意志などおかまいなしに、力強く脈打っていく。
これから、オレがこの世で唯一、求められていることが始まる。
「タカヤ…」
暗くなった廊下の向こうから、ヒタヒタと聞こえだした足音が自分のすぐそばまできた。
「タカヤ、元気だったか…?」
オレは小さく頷くと、差しだされた大きな手をにぎった。
皇子ハルナ=モトキに抱かれる。
いま、この世でオレがすることは それしかない。