ジャンク

□ハロウィン限定SS'09
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秋限定SS
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「わぁ、もうそんな季節なんだね〜」

秋の帰り道。

思わず足を止めたのは、小さな雑貨屋の窓辺。

小さくて皮もオレンジなカボチャに、吊り目とギザギザ口を開けた置物、ジャックオーランタン。

フォルムが可愛らしいコウモリのツリーオブジェ。

どこか愛嬌を感じるお化けの…これはぬいぐるみ?

黒とオレンジの世界が、窓からも溢れてくる。最近この国にも定着してきた秋のイベント──



「…日本人の呆れた習性、といったところですね」

すぐ隣からぼそっと呟かれた低い言葉。

思わず視線を向けると、杏平がうんざりといったような表情で同じく雑貨屋の窓を見ていた。

「呆れた習性?」

「そもそもハロウィンは、ケルト人の収穫感謝祭をカトリックに取り入れた海外発祥のイベントです」

杏平は一旦言葉を止めると、右手人差し指で眼鏡の中央を押し上げた。

「キリスト教が一般的な地域なら必ず祝われる訳ではないにしろ、キリスト色の濃いイベントには違いありません。それを仏教が主流の日本で行うなど、滑稽です」

「…そう?」

「由来も意味もロクに知らずに、みんなで仮装してお菓子を強請るという表面上の面白さに飛びついてるだけです。まぁ、ハロウィン関連の商品が売れるので経済的効果は多少あるとは思いますが」

そういうのを企業戦略と言うんです、と杏平は続けた。

「でも、なんかワクワクしちゃうじゃない。そういう楽しい事やいい事を取り入れるのは悪い事じゃないと思うけど?」

「正月を盛大にし、花見で馬鹿騒ぎし、お盆を粛々と迎えたかと思えば今度はハロウィンにクリスマスと…あまりにも無節操だと思いますがね」

相変わらず…手厳しい。

「だけど可愛らしいよねぇ。お化けの格好して"お菓子くれなきゃイタズラするぞ!"って…私も子供の頃にこーゆーイベントが普及してたら良かったのに」

「単にお菓子が食べたいだけでしょう?」

「………」

「大体、ハロウィンの由来は日本で言うお盆のようなもので…」

そんな説明しながら、杏平が繋いでいた手をくいっと引っ張る。

私はあっけなく、ハロウィン溢れる雑貨屋から帰り道へ引き戻された。

「…それにTrick or treatの習慣はクリスマス時期の酒の席での習慣から発展した――」

進行方向を見ながら、丁寧にハロウィンの説明を続ける杏平の横顔を見つめる。


「で、ブルターニュ西部の…」

急に説明を途切らせた杏平が、きゅっと切れ長の視線を私へ向けた。

「…さっきから、何黙って私を見てるんですか?」

「――今日の夕飯。ハロウィンにちなんで、かぼちゃの煮物にする?」

ひく、と杏平の眉間が少しだけ寄る。

「…杏平?」

「……カボチャを食べるのは、冬至の日です」

"まったく"と言わんばかりの態度で、歩く速度が少し速くなった。

――皮肉に思われたかな?

そう考えて、思わず苦笑が口元に滲む。

だって

博識だとは知ってたけど、ハロウィンまでそんなに詳しいなんて知らなかったよ。

実はハロウィン、好きなんじゃない?



…なんて、言ったら怒りそうだから言わないけどね。



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