Novel-1

□あなたが生きていないと意味はない
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ファーストアタック。
アルトがSMSに所属し、最初の仕事となったバジュラとの交戦。

ルカを助け出したアルトは、艦内に戻ると、ミハエル、オズマの両名に思い切り小突かた。
やれ『無茶をするな』だの『一人で突っ走るなんて、何考えてるんだ!』だの。
それでも心配してくれていたのだと分かる二人に、アルトは頭を軽く下げながら、ストレッチャーで運ばれていったルカを心配そうに見送り――

「あの、オズマ…隊長」

同じように去ろうとしたオズマを引き止めた。
アルトの呼び止めに、オズマは足を止め、何か察したのだろうか。
ミハエルは『先に失礼します。お疲れ様でした』と、敬礼をするとその場から立ち去っていった。
その場には、呼び止めたアルトと呼び止められたオズマだけが、まだそう打ち解けてはいない間柄からか、
少しばかり気まずい雰囲気で残されることとなった。

「んで、なんの用だ?言っておくが、謝罪はいらねぇぞ。お前は間違ったことをしたわけじゃないしな。
まぁそれにしちゃ無謀だったのは確かだが――ついでにVF−25をおしゃかにした事は、それは後で通達する」

「それはわかりました。でも、話は違う…いえ、違います」

アルトは強く美しい眼差しでオズマを見上げた。
その瞳は強い意志を携え、その話を無碍にする事は許されないかのように思えるほど、真剣だった。

アルトはオズマが自分をしっかり見据えていることを確かめると、小さく息を吸った。
どうしても、アルトには言いたいことがあったのだ。
それは少しばかり、緊張する言葉だ。

言おうとする今でもなお、新米が偉そうに何を言う気だ、と、己を攻めたくなるほどなのだが―― どうしても、我慢できないことがあった。

「まずは俺の口がなってない無礼を――許してもらえますか?」
「……許そう」
「これから話すことも、きっと部下らしくないことっすけど…許してくださいよ?」
「お前なぁ…言う前からそんな保身をかけるなよ」

オズマの許可を得て、アルトの口調は普段の、ミハエル達と接するようなくだけた口調に戻った。
オズマからすれば、正直、こちらの方が彼らしく思えて好ましいのだが――
一応軍人扱いであるからして、仕方がない。
その彼が自分に許可を求めてまで、何を口にしようとしているのかは、気になるものだ。

アルトは少しばかり目を泳がせると、もう一度息を吐き、勢いよく顔をあげた。

「生きて帰るのは、アンタもですよ?」

真剣な、目だった。
口調は確かに慇懃無礼、なってないどころじゃないし。
むしろ説明もなにもなくはじまった言葉にどう対応していいのか。
オズマは多少困惑していた。


生きて帰るのは?――


「アンタ。通信で言ってた。誰一人欠けさせないって、死なせないって。
でも――それは、アンタのことは入れてなかった。自分は死なないって、言わなかった。俺が死なせない――じゃあ、死なせないためにアンタは『自分を失う覚悟』をしてたってことなんだろう?」


頭が追いつかないオズマをおいていくように、アルトは一方的に言葉をぶつけた。
まるで、子供が駄々を捏ねるようだと、どこかで思いながら、なんとか言葉を拾っていく。
目の前のぶすっとしたアルトの表情に、ようやく、彼は心配しているのだと気づいた。

――なんてこった。こんなガキに、命(タマ)の心配されちまうとは、なぁ。俺も歳か?

思わず苦笑が漏れてしまった。
それがアルトは面白くなかったのだろう。
わかってんのか?と、むすりとオズマを見上げた。

アルトだって、なんでこんな事を言わなきゃならないんだとか、少しばかり偉そうに言い過ぎたかな?とか。
不安だのイラつきだのに支配されて、ぐちゃぐちゃだっていうのに。
どうして、それを笑われなきゃならないんだ!
ちょっとは心配してやったのに。

とても、面白くない気分だった。
それから、とてつもなく、恥ずかしい気分だ。
アルトがそっぽをむいてしまったことに、オズマは悪いことをしてしまったかと、慌てて謝罪した。

「悪い。言葉が足りなかった。俺だって、軍人だが――生きて帰るつもりで戦っている。死ぬつもりで戦うやつは、鉄砲玉にしかなりゃしねぇ。そんな人間に、なるつもりはない。生憎、命根性は汚ねぇぞ、俺は。なにせ、ランカが待っている」

「いえ…俺も、なんだってこんな事言おうと思ったんだか、訳わかんねぇんで」

ばつが悪そうに頭を掻くアルトに、オズマはぽんぽんと、安心させるかのように頭をなでた。

「お前の言うとおりだ。そんな覚悟はいらない。ちゃんと、生きて帰って、お前らの面倒もちゃんと見てやるから。安心しろ」
「――っ」

顔を覗き込まれ、優しく諭されたことに、アルトはどきりとした。
ちゃんと、帰ってくると。
自分の伝えたいことを、自分がわかっていなくても、ちゃんと聞き遂げて誓ってくれた相手。

それがとても、幸せだと、どうしてか――思ってしまった。


■END■

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