Novel-1

□赤い糸でつなぐ小指
1ページ/1ページ

「ん…?」

ごろりと、ミハエルは寝返りを打った。
一人用のベッドのはずなのに、狭いな…と思い、隣に手を置いて――

そういえば、昨日は姫とシタんだっけか…と思い出した。

薄情な、と思うかもしれないが。
だが、一人で過ごす時間が多かったせいもあるだろう。
こうして温もりを抱いて寝る日々に、時折『一人』なのではないだろうかと錯覚する事もあるのだ。

急に目が覚めてきたこともあり、ミハエルは少しばかり気だるい身体を起こした。

ぼんやりと隣を見れば、寒いのか、縮こまって寝ているお姫様が一人。
いつもは結んでいる髪も、今は解いていて、どこから見てもお姫様みたいだと思った

そういえば、自分がこの髪を解いたんだっけな、と、思い出し、ミハエルはベッドの下を覗き込んだ。

情事に及ぶ際、髪を解き、髪留めはベッドの下に投げ捨てた。
なければ姫――アルトも困るだろうと思い、ミハエルは手探りでそれを探し出した。

なんだか、アルトが「この紐はうんたらかんたら」とか言っていたが、そんなものは覚えちゃいない。
ミハエルにとって、それはアルトの髪を結うための紐でしかない。
房のついたそれは、上品な赤で、この暗闇にも鮮やかに目に映った。

「まるで、赤い糸みたいだよなぁ」

なんだ、その乙女めいたコメントは。自分にしては芸のない――文句だ。

ミハエルは自分に呆れながらも、その紐を手の上でもてあそんだ。
小指に絡めて、思わず笑ってしまう。

自分の赤い糸の先には、誰がいるのだろうか。

隣に目を落とした。

お前だったらいいのに――お前であってくれ。

そう願ってしまうほどには、ミハエルはアルトを愛している。
たとえ同性同士であっても、ぜひとも繋がっていて欲しいものだと思う。

「そうだ」

ふと、こっそり、アルトの右手の小指を持ち上げて、紐の片側を結んだ。
そのままベッドに伏せて、ミハエルはくすりと笑った。

起きたときのアルトの反応が非情に楽しみだ。
驚くだろうか。怒るだろうか。

それとも、恥ずかしがって外してしまうのだろうか。

意外と――外さずに、あっけにとられて笑うのかもしれない。

ミハエルはアルトを抱き込むと、もう一度夢の世界へと飛び込んだ。
明日の朝を楽しみに待ちながら。


■END■

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ