Novel-2

□風の中の青い鳥
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「弱いな…」
今日ほど自分を情けないと思ったことはないだろう。
ミハエル・ブランは頭の包帯を指でなぞり、くそっと、小さく叫んだ。


ここはSMS内で重傷者が出た際などに利用している軍事病院だ。
気づけばここにいて、ベッドの上に寝かされていたことを、ミハエルは覚えていた。
目が覚めたとき、第一に、自分がどこにいるいるのかよりも、戦場の事を思い描いたのは軍人と言う席に身を置いているせいだろうか。
自分のバルキリーに乗っていた歌姫のことが思い出され…

――そうだ、戦況は!シェリル・ノームはどうなった?ガリア4は……

「っ…!」
身体を起こした瞬間、ずきんっ…と痛みが強く走った。
現状把握をする前に、この痛みを抑えなければと慌てて深呼吸をする。
次第に収まる痛みに、ようやく――自分はあのフォールド転移になんとか乗り、その衝撃で頭を強く打ち、気絶したのだと、思い出す。
その際、シェリル・ノームの声が聞こえた気がしたが――自分がこうして生きていると言う事は彼女も無事なのだろうか。
安否の確認はできなかったが、クライアントを死なせたとなればプロとして、これほど失意を覚える事はないだろう。

それも後に、ちゃんとぴんしゃんしているらしいと、見舞いにきたクランに聞いたので大丈夫なのだろうけれども。

ただ――あのガリア4が丸ごと消滅したと言う事実は変わらず、それだけが半分とはいえ、ゼントラーディーの血を引くものとして胸が痛んだ。

確かに彼らは、自分達をはめたかもしれない。
それでもやっぱり――血はつながりのあるものへの悲しみを覚えてしまう。

それがまた、ミハエル・ブランには辛い事だった。
「だめだな…全く。こんな病室なのが悪い。彩りはないし、綺麗どころもないんじゃな…」
軽口を叩いてみるが所詮、個室である。
誰かが返答を返してくれるわけでもなく、今は見舞いの一人もいなかった。
ミハエルはただ、ぼんやりと窓の外から作り物と――自分の愛する相手が呟いた空を見つめていた。

――今頃。アイツはどうしているか…

昇進したと聞いた。
見舞いにきたオズマが、自分を叱咤しつつも苦笑して、思い出したかのように言ったのだ。
『アイツもついに、お前に並んだか?』
それに対し自分はなんと答えただろうか。
『まだ――抜かせませんよ?』
それは余裕なんかじゃない事を自分自身がよく知っていた。

たとえアイツが――早乙女アルトが自分の恋人であって愛しい相手だとしても。
譲れない、譲りたくないものもあるのだ。


そう。
相手は恋人だ。
だが忘れてはならない。
相手は戦友でもあり、ライバルでもあるのだ。


それを失念した事など、一度もない。

だからこそ、あの瞬間アルトが死んだとは思わなかったし、きっと無事だろうと信じていた。
これが裏切られたら、自分は今度こそ――姉の時以上に人を信じる事などできなくなっていただろう。
約束は――反故にさせない。

生きて帰るのだと――密かに、シェリルに聞かれないよう、部屋の隅で囁いた言葉を。

ミハエルは、ぎりっと歯をかみ締めて、どさりと横になった。
スプリングがぎしりと軋む。
眠ってしまえばなにも考えずにすむだろう。
アルトが今どうしているかとか――

「そういや…姿を見ない」

生きているのは確実だ。
オズマもカナリアもアイツはシェリル動揺にぴんしゃんしてると言っていたからだ。
検査中なのだとは聞いていたが、その検査も終わったはずだ。
ランカちゃんがお見舞いに来て、ベッド脇のナイトテーブルの上にある花瓶に生けられているのがその証拠だ。
同じように検査を受けていた彼女が見舞いにこられるということは――アルトも同様である事を指すはずなのに。
ミハエルは少しばかりイラついた。
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