Novel-2

□いつか来る日
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沢山のバジュラと一機のバルキリー。
黒い機体は善戦しているかのように見えた。
後方にいる自分は、安心していた。
あの人なら、大丈夫だ。
あの人が死ぬわけが無いんだって。

あの人の背中を追っていけたら、いつか追いついて追い越せたら――
あの人にずっと見てもらえたのなら、どんなに幸せなんだろうと。

そう思った瞬間――

あの人の機体は、バジュラの大群に襲われた。
あの人はなす術もなくて――

「うそだ」

俺はただ、呆然と見ているしかなくて、また何も出来ないんだと、自分の無力さを呪う。

その繰り返しを――どうしてだろうか。
このところ、夢に見る。


慌てて起き上がれば、誰もいない部屋だ。
今日が何日なのか、今はどうなっているのか。
携帯で確認して溜息をつく。

どうして――そんな夢を見てしまうのだろうか。

泣きそうな顔をいつも鏡で確認をして自己嫌悪をする。
どうして、そんな不吉な夢を見なければならないのか。
こんなに自分は――早乙女アルトは、あの人に。オズマに愛されているというのに。

「くそっ!」

思わず鏡にこぶしを打ちつけ、アルトは歯をかみ締めた。
見たくて見ているわけじゃない。だけど――そのたびに、不安になる。
自分が死ぬ、あの人が死ぬ。それが酷く怖くて仕方が無かった。

あの人に呼んでもらえなくなる。
あの人に抱きしめてもらえなくなる。
あの人と喧嘩できなくなる。

そう考えるだけで、胸がぎゅっとつかまれ押しつぶされるかのような感覚に狂わされそうだ。

最前線を行くあの人だからこそ――怖い。

いつか。そんな日が来てしまうんじゃないかと。


「オズマ…隊長」

アルトはふらりと、自室のドアを潜り抜け、廊下へと出た。
時刻は深夜。
もう、オズマは寝ているかもしれないと思いながらも、アルトは不安を打ち消したくてたまらなかった。
こんな弱い自分は、好きではない。
できることなら、あの人にだって曝け出したくないくらいなのに。
それでも――確認しなければ眠れなかった。

生きている証拠が、目の前に欲しくてたまらなかったのだ。

行きなれた通路を辿り、見慣れたドアの前に立つ。
何度か通い、何度か抱かれたこともある、彼の――オズマ・リー少佐の部屋だ。

ただし、彼は自宅組みなので、ここにいる事は数えるほどだ。
それでも、ここ最近はここに詰めている事も多い。
先日からのバジュラの件もあるだろう。
仕事だって山ほど抱えている人だから。

今日もいるだろうかと、アルトは預かっていたスペアカードキーを差し込んだ。
自由に入ってもいいと渡されたそれは、アルトの宝物だ。
これがあれば、生体認証がなくても入れるものだ。
無くしてはならない。シークレットキー。

ただし、仕事があったり機密事項を持ち込んでいる場合は去ることを条件にして――貰ったのだが。

それを使って中に入ってみたが――そこは暗く誰もない部屋だった。
どうやらオズマは自宅に帰宅したらしい。

「なんだ、いないのか」

ほっとしたような、それでいて、自分が知らないだけで本当はあの人は――いないんじゃないだろうか。
不吉な考えに、アルトは首を振り、追い払うように足を踏み出した。
慣れた手つきでぱちりと電気をつけると、オズマの匂いがした。

それだけで、少しだけ安心できる。
あの人の証は、まだここにある。

ふらふらと入った室内を見渡して、まだ温かみの在る部屋に安堵しながらも、アルトはベッドの淵に腰掛けて溜息をついた。
「なにやってんだ…俺。勝手に入って、勝手に不安になって。アホらしい。ミシェルの奴に知られたら、笑われる」
苦笑しながら、ぱたりとベッドに伏せると、顔の直ぐ横にある枕から愛しい人の香りがした。

「ん…オズマの香りだ」
枕を抱き寄せて顔をうずめると、安心できる。
あの人の香りがするだけでも、大丈夫だと抱きしめられているかのような感覚に陥る。

自分はもしかしたら――オズマがいないと、生きていけないほどに弱くなったのだろうか?それとも――そんな女々しい女を演じているとでも言うのだろうか。

「もう、どっちでもいいや。眠い…」

アルトはうとうとと船を漕ぎながら、もしもここで寝て、明日の朝あの人が自分がいるのを見たら怒るかな?と思いながらも、それでも怒る相手がいてくれるだけでもいいや、と意識を手放した。
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