エファーラン戦記U
□エファーラン戦記 第47話〜ひと時の安らぎ〜
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その翌日、急に私は父であるゲオルグに呼ばれた。
最近めっきり眠る時間の長くなったゲオルグと会うのはまだ片手で数えるほどしかない。
「お父さん・・・体はどう?」
ゆっくりと白い世界の中に入り、いつものように寝台に近づく。
「ユイか・・・今日はだいぶ気分がいい・・。」
そういうゲオルグは、再開したあの日から比べると明らかに痩せていた。
「そっか・・・よかった。」
心の中では色々な思いが交錯するが、私は何も言わず椅子に座る。
するとゲオルグの節くれた手が私の手を包んだ。
(・・前よりも骨が浮いてる気がする・・・)
小さくなってしまった手をしっかりと握り返しながら、ゲオルグの言葉を待った。
「ユイ・・・・手の肉刺が増えた、な。」
ぽつりと言葉を零すと、ゲオルグは確かめるように私の手のひらに触れる。
「そっかな・・・?」
(最近ずっと剣握ってるせいか・・・)
「あぁ・・綺麗な手なのに―――私の、せい・・だ・・な。」
ふぅ―――と息を吐くと、じっと私の目を見つめた。
「お父・・・さん?」
「ユイリス、私の愛しい娘よ。私はお前の幸せだけを願っているのに、無理ばかりさせてしまう駄目な親だ。」
寂しげに揺れるターコイズグリーンが滲むのがわかる。
「しかし、この国は荒んでしまった・・・私のせいで―――」
少し遠くを見つめる瞳には、今この国に起きている異常を知っているようだ。
「お父さんのせいじゃない。お父さんは皆から慕われてるんだから・・・この国に本当に必要な人だよ―――だから早く体治して・・元気・・に・ッ・・・」
最後は嗚咽が混じり言葉にならなかった。
前にニールディスからゲオルグの病状は聞いている。
体は衰弱し、生きているのが不思議なぐらいだと言っていた。
確かに何も食べず、ただ寝ているのだ。体の筋力は衰え栄養は取らない状態がずっと続いている。これでは治療するにもどうしようもない。
常に覚悟しておくように言われていた。
(やっと・・・・やっとお父さんに会えたのに―――)
私の思いが聞こえているのか、変わらずゲオルグは穏やかな視線を私に送る。
「ユイリス・・・」
「いやッ!お父・・さんの弱音なんてもう―――聞きたくない。」
駄々っ子のように首を振れば、ゲオルグは優しく抱きしめてくれた。
「・・・・わかっているんだ、私の眠りが長くなっている事は・・・・ユイ・・・・リンファの所に、連れて行ってくれないか?」
すでに一人では歩けないゲオルグは、傍に控えていたクラヴィに助けてもらい、白い階段を下りる。
扉の先はクラヴィは入れないため、そこからはゆっくりと私が連れて行った。