エファーラン戦記U

□エファーラン戦記 第50話〜深淵〜
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そこは暗く沈んだ場所だった。
何もない――――ただ虚無が広がるのみの場所。


そこで私は泣いていた。
理由はわからないが、ただ不安で、苦しくて、悲しくて。


誰も助けてくれない真っ黒な世界。


もうこの場所にずっと居るしかないと、私に帰る場所はないと、そんな絶望だけが心を占めていた。

しかし――――――


「ユイ姫?」


想像だにしていなかった、誰かの声が聞こえた。

私は恐れ半分、驚き半分で顔を上げると、そこには澄み渡る空色の髪を持つ綺麗な男性が居たのだ。
まっすぐに伸びだその髪はサラリと肩に流れ、同色のローブがこの世界では異質なもののように輝いている。

「・・・だ・・れ――――?」

久々に言葉を発したかのように私が出した声は掠れ、無意識に体がビクリと震えた。

「リューク=ルストと申します。覚えていらっしゃいませんか?」

少し困ったように微笑む姿からは邪気は全く感じられず、どこか懐かしい気すらする。
それでも、今の私には彼の名を言い当てることは出来ない。

「・・・・・・わから・・ない・・―――」

私の言葉にリュークと名乗った男性は、ゆっくりと隣に座り、私の手を取った。
真っ白で一つの芸術のような手は、とても男性のものとは思えないほど滑らかだ。

「大丈夫です。今は少し忘れているだけですら、ゆっくりと思い出していけばいいですよ。」
「でも・・・・・」

正直惑っていた。
悪い人ではないのはなんとなくわかるし、信用しても大丈夫だろうとは思うが、この人の言葉を鵜呑みにしてもいいのだろうか?
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