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□Nightmare is
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「…そっか…!」
日本語が不自由で、イマイチ不器用で、ちっとも素直にならない阿部の、
最大限頑張ったお誘いだ、これは。
虫なんかにかこつけるところが、またベッタベタ。
でも、今は、茶化したりしない。
そんなこと言ったら、せっかくの阿部の努力が無駄になるので。
「わかった!すぐ行く!」
と、元気よく答えて、電話を切る。
取るものも取りあえず、階段を駆け降りる。
どこ行くの?と台所から飛んでくる声に、
うん、ちょっと、なんてわけのわからない返事をしながら玄関を飛び出した。
跨ったチャリのペダルを、ほとんど立ちっぱなしで踏み込みながら、
「蛾かぁ…」
なんて呟いてみる。
蛾。
蛾ね。
阿部の『言い訳』を反芻すればするほど、顔がニヤけてしまう。
たかが虫ごときに、片道40分かけて駆け付けてあげる。
こんなオレが彼氏で良かったねぇ。
自分がどれだけ恵まれてんのか、ちょっとは神様に感謝した方がイイよ、ホント。
ウォークマンが10曲目を奏でだしたとき、阿部の家の前に着く。
チャリに鍵をかけるのと、玄関のドアが開くのが同時だった。