「One piece」

□・「大工とコック」
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---「大工とコック」---



「うおっ…っとと」
キッチンにて忙しなく働いていると船が激しく揺れた。
航海士のナミが言うには嵐がやって来るらしい。
嵐が来ると火は使えない。
火花が飛んで火事になるのを防ぐ為だ。
本格的な嵐が訪れる前にと、サンジは懸命に料理や保存食を作っている最中だった。
懸命になり過ぎる余り、船の揺れにバランスを失って数歩後退りをする。
元々海上レストラン、バラティエで副料理長を任されていた男だ。
少々の揺れなんてサンジには何てことない。
それが災いしたのか、運悪く、後退した先の床が滑って、サンジは手にしていたボウルごと引っくり返ってしまう。
一瞬の出来事、食材を離すものかと意識が其方へ向いたせいもあり、サンジは腰か後頭部を強打するのを覚悟した。
…が、寸での処でガッシリと大きな腕に抱えられてしまう。
「…オウ、兄ちゃん、大丈夫かい?」
「フランキー」
サンジの身体を支えていたのは、仲間になったばかりの船大工、フランキーだった。
サイボーグとの異名を唱えられるだけあって、フランキーの身体は普通の人間と違い、身体の前面は鉄で出来ている。腕は一回りも二回りも太く、シャツにビキニのパンツという変わったファッションセンスの持ち主ではあるが、腕の良い船大工である事だけは確かだった。
夢にまで見た広々としたキッチンスペース、鍵付き冷蔵庫やオーブン、イケスを兼ねた巨大な水槽。
海のコックであるサンジの理想をそのまま作った男がフランキーなのである。
「ああ悪い。床で滑っちまった」
フランキーの腕の中、見上げる形で苦笑をするとサンジは礼を言って体を起こす。
サラリと零れる金髪がフランキーの腕を擽っていたのをサンジは気付かない。
一瞬両手を出したまま動きが固まっていたフランキーだが、
「…ふぅむ、何なら滑り止めを付けておくか…」
膝を折り、掌を床に這わせてその感触を確かめる。
「嫌ぁ、大丈夫だろ。今に馴染む」
サウザンドサニー号は言葉通り新品のピカピカの船なのだ。
サンジはボウルをテーブルに置き、イケスから拝借したばかりの魚を手際良く捌いて行く。
「だがな、また兄ちゃんが転んだら次俺は助けられないかもしれん」
フランキーは真面目な顔で言う。
「ははっ…アンタにゃどんくせーとこ見られたな」
「それに常に床が乾いているとは限らん。航海中事故が起きねぇように、多少なりとも安全を考えた上で気を配るのも大工の仕事よ」
立ち上がると腕組みをし、ニィと物騒な瞳をギラつかせてフランキーは笑みを刻む。
「そりゃあ、いい。フランキーがこの船にいるってだけで心強いぜ」
サンジもそれに笑みだけ返すと、骨まで細かく砕いてすり潰すと団子を作り油で揚げて行く。
その合間に貴重な野菜で新鮮なサラダと野菜スープを早業で作り、保存用にスモークチキンとサーモンの準備に取り掛かる。
これは火が使えなくなった時の為にサンドイッチにする予定だ。
そして米が出来上がったら焼きおにぎりでも…
「だろう?何せ俺はスゥーパァーな船大工だからな。処でコーラをくれるか?」
「おう、いいぜ」
椅子に腰掛けるフランキーに口端上げて笑みを浮かべると、冷蔵庫から冷えたコーラを取り出し、バーテンよろしく樽型のコップに注ぐとテーブルを滑らせ彼の手元へと送る。
「あんがとよ」
「どういたしまして」
フランキーのパワーの源はコーラ、エネルギー切れを起こすとバッチリと決めたリーゼントが勢いをなくす。
最初それを知った時には正直驚いたが、大食漢のルフィに比べりゃ何てことない。
自ら補給したりもするが、ほとんどの場合、フランキーはコックであるサンジを立てて厨房へは立ち入らない。
サンジはそれに気付いている。
それどころか、他のクルーと比べ感謝しているくらいだった。
サンジにとってフランキーの存在はこれからの航海、なくしてはならない大事な存在となったのだ。
フランキーは喉を鳴らして美味しそうにコーラを飲んでいた。
喉元が上下する様は年上だけあって男に磨きが掛かっており、コーラがアルコールに変わってもそれは曇る事がない。
「…嵐、乗り切れそうか?もう少ししたら調理が終わるかよ、そうすりゃ俺も手伝うぜ」
「アハハ、この船はそこいらの船と違って頑丈だからな、心配はいらねぇ。嵐のひとつやふたつ朝飯前だ。それに兄ちゃんばっか働かせてちゃ男として情けねぇ。兄ちゃんは俺達の為に元気の出るメシを作ってくれりゃあ誰も文句は言わねぇよ。んじゃもうひと頑張りすっかぁ、ご馳走さん」
「イヤ、いつでも補給に来てくれよ」
「おう、じゃあな」
空になった杯を手にしたサンジはフランキーとの短い会話を笑顔で締めくくる。
フランキーもそれには同意でニィと笑みを浮かべ、
「ああ、そうそう、兄ちゃん。作ってばっかいないでテメェもちゃんと食わないと、女に間違われるぜ。なんせ軽い軽い。ニコロビン並に軽かったな」
フランキーは先程のサンジを受け止めた感触を思い出しながら腕を上下に2、3度持ち上げた。
「…っ、余計なお世話だ、この変態クソ大工!」
「あはははっ、じゃあな」
フランキーはサンジの蹴りがヒットする前に甲板へと消えて行った。

そして…
サンジがちょっと目を離した隙に、大工の手によって厨房に滑り止めが設置されたのは言うまでもない。


END


(注)滑り止めがあるかどうかは不明です
   あくまでパロディですので、すみません…

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