頂/捧

□散るとして
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視界に広がる薄い青。

真っ直ぐに手を伸ばせば、それは何かに触れることなく宙をさ迷う。


昼休みを向かえた学校は賑やかで、今も名も知らない生徒達のはしゃぎ声が聞こえてくる。

こんな時に自分は何してるんだと心の隅で思う。


それでも仕方がない。

実際に暇なのだから…。


いつもなら島崎あたりに悪戯でも仕掛けているのだが、今日は何故かそんな気になれない。


つまらない。

だけど動くのが面倒臭い。


そうやって山ノ井は一人、屋上で暇を持て余していた。




「昼寝?」


雲がないはずなのに、山ノ井の場所に陰が出来る。

何かと見れば、本山が寝転ぶ自分の横から顔を覗き込んでいた。


「う〜ん…、日向ぼっこかな」


特に理由があるわけではないので、首を傾げながら答える。

それを聞いた本山は、「自分でも分かってないんだ」と笑った。


夏とは違い春の太陽は控えめで、本山の表情がよく見える。


青空を背景に笑う本山はとても綺麗で、写真に残したいとさえ思った。

しかし、その思考が恋をしている奴のものだと気付き、山ノ井は恥ずかしさのあまり立ち上がる。


「山ちゃん?」


「何でもない!」


そんな無意識にした考えもこの赤くなった顔も、瞬きを繰り返している本山は知らないだろう。



風が吹く。

さらさらとした髪が揺れる。


本山から、一枚の花弁がひらりと屋上の床に落ちた。


「本やん、裏庭に行ったの?」


この学校にある一本の桜の木を思い出す。

緑の葉が出てきて葉桜となってきているそれは、今は最後の花びらを落とそうとしている。


「山ちゃんを捜してる時に通ったけど…?」


花弁に気付かなかった本山は、よく分かったねと不思議そうに答えた。


「そういえば、今年は忙しくて花見出来なかったね」

「俺ん家の近くの桜はまだ結構咲いてるよ」

「山ちゃん家から徒歩五分の公園?」

「うん」


遅咲きだったからと言うと、本山は行きたそうにする。



「せっかくだし、今から行こうよ」

「え…?」


学校に響くチャイムの音。


「今から?」


慌ただしく教室に戻る生徒の声の中、ポケットの中の自転車の鍵を取り出して見せた。


今から行けば午後の授業には出られない。

意外と真面目なところがある本山が賛成するか、それは山ノ井にも分からない。


ただ、本山の笑った顔をもう少しだけ見ていたかったのだ。


今度は本山に手を伸ばす。


「行こうよ。早くしないと散っちゃうよ」


願いに近い思い。

迷っていた本山は山ノ井を見た後、右手を出しながら目を細めた。


「なら、途中でコンビニに寄ろうか」


さっきは何も掴めなかったはずの手は、目の前の人物にゆっくりと握られる。


笑いながら返された言葉に、山ノ井は口の両端が上がるのを感じた。














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「朝焼けの月」の奈都様から頂きました!
奈都様の書かれるお話はどれも大好きなんですが、特に好きな本山ノ井を頂いてしまいましたよ^^

私の中の本山ノ井はいちゃこらもするけど、3年生と言うこともあって大人っぽいイメージなんです。

そこを奈都様は、どストライクに書いてくださいました!

本当にありがとうございました!
これからもよろしくお願いします!

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