忍BL

□いつだって、君のために
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本当の私は、とても弱くて、そんな自分を認めたくなくて、
でも、弱くて、強くもなれない。
こんな私だから、誰からも愛されない。

自分で自分を愛さないと、
壊れてしまいそうだったから・・・

『私は強い』
『私は素晴らしい』
『私は・・・』

そんな言葉を自分に被せて、今日まで生きてきた。

分かって欲しくて…でも、全て分かる筈なんてない。
守って欲しくて…でも、守られるだけなんて嫌だ。
愛して欲しくて・・・


『私』を愛してくれる『誰か』はいてくれるの・・・?








「いけいけどんどーん!!!!」

裏々々々山まで響き渡るほどの喧しい声。
後ろに居る後輩たちなど気にせず、いつでも暴走する体育委員会の委員長、七松小平太。

(本当に、いい加減にしてほしいものだ!)

その委員である、四年の平滝夜叉丸が頭を抱える。
委員会が始まる前に、あれほど『下級生の為に、普段より少しだけでも良いので、ペースを落として走ってください』と頼んだのも関わらず、前を行く小平太に苛立ちを覚える。


「・・・金吾大丈夫か?四郎兵衛頑張れ・・・って、三之助!そっちではない!!」


まだそんなに体力もない、一年二年を気遣いつつも励まし、無自覚の迷子を離さないように紐を持たせる。

体育委員会には五年生がいない。
更に、委員長が下級生を放っておくため、自然と下級生の面倒を見るのは、四年の私しかいないワケだ。


(私はなんと慈悲深いのか・・・!学年一優秀で、慈悲深い私だからこそ、為せることなのだ!!)


・・・と思ってないと、やってられん!!


「・・・ゼィゼィ・・・たっ!滝夜叉丸先ぱ・・・・・・もぉ、ゼィゼィ!!・・・あぅっ」
金吾が倒れた。
「金吾!!」


「・・・先パ・・・ッ!!もぅ・・・無、理で・・・すぅ〜〜っっ!!!!」
四郎兵衛が倒れた。
「し、四郎兵衛ぇ!!!!」


「・・・・・・」
無自覚迷子を引っ張る為の紐が、いきなり軽くなったと思ったら、後ろにいた筈の三之助がいなくなってた。
「三之助どこ行った―――――――ッッ!!??」



(仕方ない、七松先輩を呼びに・・・)
走っているスピードを更に上げて、遥か先を走ってる小平太を追い掛ける。
「ハァッ!!・・・ハァッ!」

・・・苦しい。

ようやく遥か遠くに小さい背中が見えた。
でも、追い付けない。
(・・・っ!!)
「七松先輩っ!!!!」
力一杯叫ぶと、小さかった小平太の背中がくるっと反転して、もの凄いスピードで私の方までやってきた。

(なんて速さだ・・・)

走りながら呆然としてたら、小平太の顔が目の前まで迫ってきたので、ビックリして目を閉じてしまった。

(・・・ぶつかるッ?!)

と思った瞬間、浮遊感を身体に感じて、目を開ける。
目の前には小平太の顔。
いつの間にか、滝夜叉丸は横抱きされていた。
「せっ先輩っ!?」
「滝、大丈夫か?」
小平太は、いつもの笑顔を滝夜叉丸に向けた。
「これくらいで、私はへこたれません!」
「ははっ、さすがは滝だね。しっかり捕まっておくんだ、よっ!!!!」
「はっはい!」
遠慮がちに小平太の首に手を回す。
先程まで、地を走っていた小平太は、いつの間にか枝から枝へ、次々と飛び移っていた。
滝夜叉丸を抱えているのにも関わらず、器用に飛んでいる。

(・・・これが二年の差・・・最上級生、六年なのか・・・)


滝夜叉丸は下唇をキュッと噛み、俯く。

(・・・所詮、言葉で取り繕っている私とは、違うのだ・・・)

陽に灼けて浅黒くなった小平太の肌を間近で眺める。
「・・・滝、何を考えてるの?」
「えっ?!」
いきなり小平太が尋ねるものだから、滝夜叉丸の心臓は、ありえないくらいに跳びはねた。
「な、なにも・・・考えてません!」
「そぅ?」
小平太がチラリとこちらを見た。目が合い、ますます心臓の鼓動が強くなる。
「しっ、強いて上げるならば、何故私はこんなに美しく優秀なのか、委員会でも下級生に優しく、何故このように慈悲深く素晴らしいのか、生まれながらにしてその才能を開花した私は、まさに神から愛された存在なんだと!それについて考えていたまでですっ」
小平太の視線に耐えられず、目を逸らし、早口でまくしたてる。

(あぁ、私は先輩に対してなんてことを・・・!本当の私は・・・)





どうしても私だけの武器が欲しくて、得意なものが欲しくて、手に取った戦輪。
どんなに練習しても、上手くならなくて、泣きながら投げて投げて投げまくった。
傷だらけになった指先。
別の武器にすべきか悩みに悩んだ。
でも、戦輪を自由自在に扱いたくて、日が落ちるまで練習した。


教科も誰にも負けたくなくて、でも夜寝ずに必死で勉強してる姿なんて見られたくもなかったし、恰好も悪かったから、明け方とともに起きて、前の日の復習、その日の予習、休みの日には図書室に行き、色んな書物を読み漁った。


実技だって、負けたくなかった。マラソンがあれば、足がガクガクになっても、横っ腹が痛くても全力で走った。手裏剣のテストがあるなら、前日、人から見られない所で練習した。火器なら、徹底的に本を読んで手順を覚え、先生の言うことをしっかり聞いて、筋力トレーニングも毎日して、扱えるようになった。


外見も、元々整った顔をしていると自分でも分かってはいたが、それでも、磨きをかけたかった。だから、健康も兼ねて、嫌いだった食べ物でもちゃんと食べようと思った(卵焼きは嫌いなのではない!どちらかといえば目玉焼きの方が好きなだけだ!!)髪だって気を使った。そしたら、サラストランキングにも選ばれた。


つまり、私の才能は生まれ持った物でもなく、私が必死にならなければ、得られなかった物だ。
そうしなければ、私には何も誇れるものがない。


それに、胡座かいて誇張しているのは自分自身。
周りの皆から見れば、私は嫌味たらしく、自分自身をおごっている、そういう風に見えているのだ。
だから、私の話を聞きたがる者など居ない。
話し始めても、いつの間にか居なくなる。
誰も居ないのなら、自分で自分を褒めるしかない。
自分ぐらい、自分を認めても良いではないか。そうしないと、心が折れそうだった。


泣いている者が居れば、元気付けてやりたくなる。
怒っている者が居れば、何故怒っているのか気になる。
笑っている者が居れば、私も嬉しくなる。
疲れている者が居れば、労りたくなる。

だから、私はいつでも駆け付け、話をする。
私がぐだぐだと話せば、一瞬でも支配されていた感情を忘れてくれるだろう?


私は私に、暗示をかける。
弱い自分を隠す為、『言葉』で自分を強くする。



だけど、『本当の私』を見てくれる人など居ない。

『私』は一体どんな人間なのか。

『私』はここに居て良いのか。

『私』を必要としてくれる『人』は居てくれるのだろうか。

『私』を『私』以上に、愛してくれる『人』は居るのだろうか。


ワタシハ・・・



小平太は枝から枝へ、飛び移るのを止め、太い枝に立ち止まる。
それによって、思考の迷宮にハマッていた滝夜叉丸はハッと気付く。
小平太は、腕の中に居る滝夜叉丸を覗き込んで、笑顔になった。


「…そうだなっ!滝はいつでも頑張ってるよなぁ!」

(・・・え?)

予想外の反応に、滝夜叉丸は小平太を見上げた。

「こうやって委員会活動中でも弱音吐かずに、金吾や四郎兵衛、三之助の心配をしながら面倒も見て・・・私が頼りないから、滝にいつも任せっきりで、とても感謝してるし、でも、滝だから安心して後ろを任せられるんだぞ?」

「なに、を・・・」

小平太は、更にニカッと笑う。

「滝がいっつも早起きして、勉強してることも知ってるし、実技の前の日には遅くまで練習してただろ?あと、得意にしてる武器、戦輪だって・・・傷だらけになりながら練習してたのも知ってた」

そこで、いったん区切る。
小平太の表情が真剣になる。

「・・・ずっと、ずっと見てたんだ。なんで皆、滝を知ろうとしないんだろうって思った。滝は凄いのに。もっと自信持っていいんだぞ?」

いつの間にか、私の瞳から何かが溢れていた。

「・・・そのようなことはありません!わ、私は、まだまだ、なんです!…な、七松っ先輩は、優し過ぎますよ!」

ごしごしと袖口で拭う。泣き顔を見られたくなくて、そのまま顔を隠す。

「ははは、私は優しくないよ。…結局、滝の頑張ってるところを他の奴に教えたりはしなかったしな。それに、優しいのは・・・」

顔を隠していた滝夜叉丸の腕を掴んで引き寄せ、ぎゅっと抱き締めた。




「滝夜叉丸、だ」



あまりにも優しい小平太の声色に、瞳を見開き、更に涙が溢れてしまった。


「…先、ぱい・・・七松先輩っ」
「・・・ん、うん。ここに居るよ」
滝夜叉丸の背中をぽんぽんと優しく、あやすように叩く。
「うっ、っく・・・なな…ま、つせん、ぱいっ」
小平太の首におずおずと腕を回して、ぎゅうっと抱き付いた。
小平太は滝夜叉丸を抱えたまま、その枝に腰掛け、滝夜叉丸が泣き止むまで、ずっと背中を優しく叩いていた。



この日、滝夜叉丸は始めて人前で大泣きした。





「・・・落ち着いた?滝夜叉丸?」
「…は、はいっ!申し訳ありませんっ!!七松先輩の御召し物を汚してしまった上に、更にずっと抱えて下さったまま・・・失」
滝夜叉丸は慌てて、小平太の腕から離れ、早口で謝罪を言おうするが、途中で何も言えなくなってしまった。
小平太の右の人差し指が、滝夜叉丸の口唇に触れていたからだ。
「・・・謝る必要なんかないんだぞ?私はただ、側に居ただけだ」
小平太は、軽くウィンクする。
六年とは思えない、なんとも茶目っ気のある仕草に、滝夜叉丸はクスッと笑ってしまった。
「さて、そろそろ門限の時刻になるから、さっさと、下級生を回収して帰ろうか!」
「・・・あ」
小平太の言葉に、滝夜叉丸は青冷めた。





「金吾!四郎兵衛!!三之助どこだ――――――――――ッッ!!??」











『いつだって、君のために』
(…あの、七松先輩、お聞きしたい事があるんですが)
(なんだ?滝夜叉丸(超笑顔))
(いつでも見てたって…ずっと、ですか?)
(・・・(超笑顔+汗))
(なんでそこで黙るんですかっ!?)
(さー塹壕掘りながら帰るぞ―――っ!いけいけどんどーん!!)
(ちょっ!?先輩っ?せんぱ――――いっ!!??)

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