忍BL

□あの頃、世界は綺麗だった
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出逢えたことが、何よりの至福。



先輩が卒業してから、数か月が過ぎました。


私は紫の忍装束から、濃紺の忍装束になり、授業内容も難しくなって、ますます頑張らねばなりません。



そういえば、風の便りで、先輩が活躍していると聞き、安心しました。

お元気で何よりです。



先輩が卒業する日、学園の裏にある、満開の桜の木の下で交わした約束を覚えていますか?


『滝夜叉丸が卒業する日。必ず迎えに行くから、この桜の木の下で待っていて。…共に生きよう』


そう言って赤くなった先輩は、私に緑色の頭巾をくださいました。



あれから、緑色の頭巾は私の宝物です。
いつも、肌身離さず持ち歩いています。
最初は、先輩の香りが残っていたのに、今ではすっかり落ちてしまいました。
残念です。


学園生活は、相変わらずな日々です。


ただ一つ違うのは、もうこの学園には先輩がいらっしゃらないということです。



数か月前が懐かしいです。









先輩が卒業してから、一度目の春を迎えました。




私もいよいよ最上級生となり、先輩と同じ、緑色の忍装束になりました。
先輩も、この緑色の装束に初めて袖を通した時、何を思いましたか?


先輩がくださった頭巾は、今でも大切に持っています。
だいぶ緑色も薄れてしまいましたが、私の目にはくださった時の綺麗な緑色がすぐに蘇ります。


そうそう、実は委員長になりました。
先輩と同じ、委員長です。
ようやくあの頃の先輩に追い付いたと思いましたが、まだまだだと痛感しています。


やっぱり、私の中で先輩は偉大です。



最近は、先輩の活躍の便りも滅多に届かず、元気にされているのか心配です。
チラッと聞いた話では、遠い彼の地へ行かれたとか。


きっと、先輩なら大丈夫でしょう。
持ち前のタフさで、どんな困難でも突破してしまうでしょう。


そして、私が卒業する頃に、こちらに戻って来てくれると、そう願ってます。



桜の木の下で交わした約束、私は忘れていませんよ。
先輩は忘れていませんよね?
ほんの少し、心配です。
先輩は、少々忘れやすいところがおありなので。

ふふ、冗談です。
きっと、先輩は来てくださると信じています。











先輩が卒業してから、二度目の春を迎えました。



卒業することが無事に決定し、嬉しい限りです。
いよいよ、明日卒業します。



二年振りにお会い出来るのが、楽しみで仕方がありません。

きっと、先輩はあの時以上に男らしく成長なさってることでしょう。
あまりにも変わりすぎてて、一目見ても分らなかったら、どうしましょう?


先輩は怒りますか?呆れますか?
それとも、笑い飛ばしますか?

あぁ、早く明日にならないでしょうか!
今夜は眠れそうにありません。


でも、目の下に隈を作ってしまっては、先輩に合わせる顔がありませんので、きちんと寝ることにします。



では、おやすみなさい。







卒業式が終わりました。
在校生にお別れを、先生方にご挨拶をし、逸る気持ちを抑え、約束の場所に参りました。



今年も桜は満開です。
二年前を思い出します。



先輩は、もう待ってくださってますか?
それとも、少し遅れてくるでしょうか?





まだ、いらっしゃってないようですね。
待つことにしましょう。

先輩のことだから、私を待つ時間が退屈で、塹壕でも掘りに行ったのかもしれないですね。
一ヵ所にじっとしていられない先輩は相変わらずのようです。



先輩、まだですか?


早く、逢いたいです。








どうしたことでしょう?
先輩がいらっしゃらないです。
まさか、待ち合わせ場所を間違えたとか?
それはないですね、裏にある桜の木はここだけしかありませんし、もう少し待ちましょう。






もう少し。









もう、少し・・・。









もう・・・少し・・・。









立ち疲れて座っていたら、足音が聞こえてきました。

先輩ったら、準備にでも戸惑ってたんですか?
これは一言申しておかねばなりませんね。
今後の為にも!










先輩!いつまで待たせるんですか!?
待ちくたびれま・・・


































先輩、お元気ですか?
先輩が卒業してから、七度目の春を迎えました。



あれから、私はプロの忍者になり、毎日忙しく、仕事をこなしています。
やはり、プロの世界は厳しいです。


でも、弱音なんて吐いていられません。
先輩も厳しいプロの世界にいらっしゃったのだから。






















お聞きしました。

先輩が、彼の地で命を落としたことを。







あの約束の日、私を迎えに来られたのは、先輩ではなく、先輩と同じ学年だった潮江先輩でした。







そして、潮江先輩からお聞きしました。




先輩が命尽きるまで心配されていたのは、私だということを。
迎えに来れず、約束を守れず、申し訳なかったと。

いつでも、私を想うと。









そして、どうか幸せになってくれと・・・!

























先輩、私は幸せです。
先輩は、約束を破った訳ではないと知ったのだから。




最後まで、私を想っていてくださったこと。







先輩の想いが私を強くしてくれます。

先輩に戴いた、緑色の頭巾は先輩の忘れ形見であると共に、私の命の一部です。



先輩、どうかこの広い空から私を見守っていてください。


























ずっと、ずっと愛してます。







七松 小平太 様


平 滝夜叉丸





―そして、八度目の春・・・

私は今、あの桜の木の下にいます。






『あの頃、世界は綺麗だった』
(・・・ここに居たのか)
(本日からよろしくお願い致します)
(それを言うなら、学園長に言うんだな)
(・・・先輩にも、必要です)
(…そうか、よろしくな)

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