忍BL

□想い愛
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好きです。

何度言っても、どんなに想っても、
次から次へと、あなたへの気持ちがあふれてすぐに私の中がいっぱいになるんです。

抱えきれないくらいの想いでも、
あなたは、軽々と持っていってしまうから、
まだまだ足りないくらいなんです。


大好きです。






授業の終わりを告げる鐘がなると同時に、四年い組の教室に大きな声が響き渡る。

「滝夜叉丸ー!」

ビックリして持っていた忍たまの友を落としてしまった。
声のした方へ顔を向けると、満面の笑顔で手を振っている同じ体育委員会の委員長である、七松小平太先輩の姿が見えた。

「せ、先輩っ」

慌てて七松先輩の元へ行こうとするが、隣に居た綾部喜八郎に足を掴まれて、そのまま無様に教室の畳に顔面をしこたまぶつけた。

「終礼がまだだよ」

飄々と言ってのけた級友に怒鳴りたいのを抑えつつ、ぶつけた鼻を押さえる。

「普通に呼び止めろ!」

そうこうしてる内に終礼は終わり、生徒たちが散っていく。
本日は午前中で授業も終わりだ。皆それぞれ予定があるのだろう。
喜八郎も私を気にせず出ていった。
きっと、穴掘りにでも行ったに違いない。

(…覚えておけよ、喜八郎)

我が道を行く喜八郎に復讐を誓う。

「あ、」

すぐに我にかえり七松先輩を見ると、教室には入りにくいのか、その場でウズウズしながら、きちんと外で待っていた。
急いで七松先輩の元へ行く。

「お待たせしてしまいすみません。どうなされたんですか?今日は委員会活動はないと伺ってますが…」

「滝夜叉丸、この後何か用ある?」

「いえ、何もないですが」

何も予定がなかったので、自室で本日の授業の復習でもしようと思っていたところだ。
七松先輩は私の返事を聞くと、私の腕を掴み引き寄せ、腰に抱えた。

「ならば、いけいけどんどんだ――ッ!!」

「ちょっ、先、待・・・っ!わぁあああああ!!」


(((ご愁傷様・・・)))

教室に残っていた級友たちがいっせいに手を合わせたのを、私は知る由もないのだった。




「先輩!どこに向かってるんですかぁあ!?」

学園を飛び出し(ちゃんと出門書にサインしました、七松先輩が)、物凄い速さで裏山の木々を駆けていく。
駆け抜けていく風の音が凄くて、声が大きくなる。

「行ってからのお楽しみだよ!」

「・・・は、はぁ」

チラリと七松先輩の顔を盗み見る。
先輩はしっかり前を見据え、口許は微かに笑っている。
立花先輩のような美しさは持っていないが、日に灼けた浅黒い肌や丸に近い瞳が鋭くなった時、太い眉、泥に汚れた姿、全てが男らしくて格好良いと思う。

自分には持っていない物を七松先輩は全て持っていて、憧れてしまう時もある。

ただ委員会活動で暴走するのには、時々・・・いやほぼ、頭を抱えてしまうが。
それでも、好きだと想ってしまう。
そのまま見つめていたら、七松先輩と目が合った。

「滝夜叉丸、私の顔に何か付いてる?」

「!?い、いえ!す、すみません!!」
(ば、ばれた・・・ッ、恥ずかしい)

顔に熱が集中するのを感じながら、目線を急いで外す。

「あんなに真剣に見られてたら、誰だって気付くよ」

「・・・ッ」
(心まで読まれている・・・)

ますます顔が熱くなる。

「ははは!滝夜叉丸は可愛いなぁ・・・もうすぐ着くよ」

(・・・先輩は、いつでも余裕がある・・・わっ)

不意に私を抱えていた七松先輩の腕に、力が入ったような気がした。
先輩の温もりがじわりと伝わる。



「はい、着いた」

七松先輩はようやく私を下ろしてくれた。
気を取り直して、目の前に広がる景色を眺める。
その景色に呆然とした。
一面白詰草の花が咲き渡り、小さな花の白さに葉の緑、澄み切った空の青さ、薄く広がる雲の白さ、全てが合わさって、まるで物語に出てくる幻想的な世界みたいだった。
その光景がとても美しくて、私たち二人だけが違う世界に迷い混んだみたいな感覚に陥った。
ここだけいつもの世界と切り離されたような、それくらいとても綺麗な景色だった。


「…滝夜叉丸にいち早く見せたくて」

「私に、ですか?」

隣にいる七松先輩を見上げる。七松先輩は汗に濡れた頭巾を取り、ニッと笑った。
私も頭巾を取る。吹き抜ける爽やかな風が開放された耳に心地良い。

「・・・今朝の実習の時に見つけたんだけど、今日委員会もないだろ?四年は午前で終わりって聞いたから。だから、すぐに飛んできた!」

両手を頭の後ろに組みながら、無邪気に笑う。
(私に、いち早く・・・?その為に?)
その気持ちが嬉しくて、七松先輩の笑顔が嬉しくて私も笑顔になった。

「・・・とても、とても綺麗です!ありがとうございます」

お礼を言うと、七松先輩が手を差し出してきた。

「せっかくだから、近くで見ようよ」

私たちは花畑より少し高い所に居たので、頷き、先輩の手に自分の手を乗せた途端、横抱きされた。

「わっ」

その瞬間、浮遊感がして気付いた時には白詰草がすぐ近くに見えたが、珍しく先輩が尻餅をついた。

「あはは、ちょっと失敗」

私を抱えたままだったので、先輩の太股に横座りする形になり焦ったが、七松先輩が抱き締めたのでそのままになってしまった。

「せ、んぱ・・・」
「今、私の中に滝を補充中」

先輩の温もりが嬉しくて、私は七松先輩の肩に擦り寄り、先輩の香りで胸の中をいっぱいにする。
七松先輩は堪らないというように、抱き締める腕に、もっと力を込めた。

「・・・仙ちゃんみたく、滝夜叉丸に予備があれば良いのに」

先輩の言葉に私の目が真ん丸になる。

「・・・わ、私が何人もいたら、私が気持ち悪いです!…そ、それに…」
「それに?」

七松先輩が私の瞳を覗き込んだ。あまりの近さに恥ずかしくなり、目を反らしながら答えた。

「・・・せ、先輩を、独り占め…出来なくなり…わっ!」

いきなり視界が反転し、澄み切った綺麗な青い空と白い雲が見えたが、すぐに七松先輩の顔によって見えなくなった。

「私をそんなに喜ばしてどうしたいの?」

七松先輩の熱の宿った真剣な眼差しと囁く声に、私の心臓が激しく動く。


「…もっと、喜ばせたいんです」
「どうして?」
「先輩の笑顔が、見たいから」
「なんで?」
「…先輩が、七松先輩が好き、だから・・・」
「…もっと言って?」
「・・・先輩が好きです」
「もっと」
「好き、です」
「もっと」
「好き」
「もっと」
「・・・大好き」
「・・・私も、滝夜叉丸が大好きだ」


私の中で七松先輩がいっぱいになった。
誰も居ない、一面の白詰草の中で誓い合うように重なる二つの影。


白詰草と一緒に絡まるお互いの指、

白と緑に散らばる赤茶の髪、

青い空に吸い込まれる私の声、

私を抱き締める力強い先輩の腕、



確かに私の中に感じる先輩の熱、


この口唇も、瞳も、指も、血も、肉も、全部が、私の全てが先輩の一部になれば良いのに。

七松先輩の心に私の心がくっついたら良いのに。

そしたら、死ぬまでずっと一緒に居れるのに。



私の口唇に触れながら、先輩が囁く。


「…滝夜叉丸を頂戴」
「・・・もう全部あげました」
「まだ欲しい」
「…欲張り、ですね」
「欲張り、なんだ」
「…持っていってください。私で良ければ、私を全てあげます」
「滝夜叉丸・・・愛してるよ」
「・・・私も、愛してます」


もう七松先輩以外、私の中に入れるものなんて、ない。










私の想いよ、もっと届け!
欲張りな先輩にもっと伝われ…!








『想い愛』
(届いたよ!)
(…へっ?)
(伝わったよ!)
(…あっ)
(私の想いも滝夜叉丸に伝われーッ!!)
(わわっ!ちょ…っ、先輩!う、ひゃあああぁ・・・)

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