玉子と子ぎつね

□塹壕日和
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「いけいけどんどーん!」
「七松せんぱーい!」

 六年生の七松小平太が先日掘った塹壕の中を走り抜けます。
 折角の休日だと言うのに 朝っぱらから付き合わされているのは滝夜叉丸。

 低学年を連れ出そうとして土井先生に怒られたので 今日はふたりだけです。

「仙蔵がな、滝が暇してると言っててな」

 それが滝夜叉丸を誘った理由でした。

(気に掛けてくれるのは嬉しいんですが。何も日が昇る前に来なくても……!)

 やれやれと後に続く滝夜叉丸は半ば諦めモードです。

「滝ー。今日は裏々山まで行くか? 登ったり降りたり登ったり降りたりしながら」
「う…… 裏山までしませんか」
「そーかー。でも弁当はいっぱいあるんだぞー」
「お弁当?」

 小平太の背負う風呂敷はパンパンです。

「バレーボールも持って来たんですか?」
「いや、今日は弁当だけだ。五人分」
「ごにんぶん!?」

 我が耳を疑う滝夜叉丸。

「そんなにどうしたんですか!」
「いやな、この前生ゴミ埋める穴掘ったり、食材運ぶの手伝ったんだ。そしたら弁当作ってくれるっておばちゃんが。ほんとは金吾達も連れてくる予定だったし」
「あ……」

 突発的なのはいつもの事ですが、お弁当まで用意していたとなると ちくりと胸が痛みます。

「……行きましょう」
「ん?」
「今日は裏々山まで行きましょう!」
「おー!」

 咄嗟に言ってしまった自分に少しだけ後悔しつつ、元気に突き進む小平太に続きます。




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