book
□sea and promise
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パタン、と少女が雑誌を閉じた。
少女が恨めしそうに見つめるのは、水着姿の少女が飾る表紙。
どう見ても冬に刊行されたものではない。
「…海、行きたかった」
少女がぼそりと呟く。
「…ごめん」
世間が、やれクリスマスだのやれ正月だのと騒がしい時期に海だなんて、なんて季節外れな話をしているんだろう。
少年は今年の夏、少女の「海にいきたい」という要望を安請け合いしたことを後悔していた。
…本当に連れていくつもりだったのだ。仕事も早々に片付けたし、多少の群れなら目を瞑ろうという心構えもしていた(これは自分にとってかなりの一大決心だった)。
そして、うだるような暑さに意識を手放しそうな奴らが、「海」というひとつの空間に集まることも承知していた、はずだったのに。
…今年の暑さと海の混雑状況は、例年までの比ではなかったらしい。
夏の暑さで浮き足立だった品のない草食動物たちの間に彼女を放り込むなんて、出来る訳がない。
自分自身暑さのせいでイライラしていたとはいえ、「今年の海は無し」だけで彼女との約束を済ませたのは、悪かったと思う。