book
□Your best words
1ページ/3ページ
食卓が彼の好物で埋められた日は、洗い物がとても大変。
和食というものは、一品一品の配膳の量が少ないかわりに、どうしても器の枚数が多くなる。
しかも煮物や蒸し物が大半を占めているものだから、美しい御膳の後ろには自然と後片付けを待つ調理器具の山が出来上がる。
けれど、こんな手間を掛けて食事を作れるということは、裏を返せばそれだけ食べてほしいと思う相手がいるということ。
私も例外ではなく、彼のたった一言、「美味しかった」、という私達の間での「極上」が聞ければ作って良かった、という気持ちになる。
黙々と台所で食器を洗う私を、彼がつまらなさそうに見ている。
……きっと構ってほしいんだ。
少し作業の手を速める。
食器を擦る音が耳に心地良い、そう思った時に、今まで私を見ていた視線がなくなっていることに気が付いた。
部屋に戻っちゃったのかしら、と顔を上げれば、一瞬探した対象に、後ろから掻き抱かれた。
「割れたらどうするの?」
手に持った食器をパタパタと動かす。
「もう慣れたでしょ」
「でも危ないわ」
「…火元を扱ってるときはしないから」